いつの頃からか、英語は2-5文字のアルファベットで言葉を略して、しかも当然既存の似たような音の言葉に寄せていくこともあるわ、同じ略語でいくつもの意味を持ち始めるので、ヒアリングの苦手な私なんぞ、それってどっちの意味?と常に確認を求めたくなることも。
そのため、私が遠い昔にいたとある米系商業銀行では、その90年代ですら、社内の略語の辞書を作る始末。まぁ、略語って仲間内でだけ通じればいいもの、なので仲間意識が強かったのかしら、なんて、もうやめて25年も経った今思い返したり、あ、社会人になって30周年の同期会の企画をしなきゃ、いや、それっていつから私の義務だっけ、なんて ADHD的に脳内ぐるぐる。

当然、投資の世界も略語がたくさん。
ですよね。以前書いた記事で 4つの略語を解説した訳ですが、それぞれがそこそこややこしいので、なんとなく知った気分になれたことで、その後にみた投資レポートあたりを眺めても、多分
ふんふんふん
くらいに微妙な腑に落ち方をしているのではないでしょうか。まぁ、自分できっちり計算しようか、なんて酔狂な人は、そのシステム開発をしようとしているか、本気でファンドのパフォーマンス分析をしようと計算結果とデータを使ってリバースエンジニアリングしようとする、そんな記事なんて不要なオタクか、くらいなもので、たいていの自分はスマートで出来がいいなんて思い込んでいる投資担当者あたりは、出てきた数字だけであれこれ投資の(評価ではなく)批評をする程度なのです。
ま、これからする話をしたら、出された数値を鵜呑みにできなくなるんですけどね。
そこにILPAがいろいろ言い出したぞ
さて、2025年の頭に、ILPAという米国の巨大な資金を投資に突っ込んでいる機関投資家とその投資支援をするコンサル/ゲートキーパーあたりが中心となってあれこれ運用をする GPに物申す圧力団体が、二つの提案を公表しました。一つは、Reporting Template ver. 2.0 (とりあえず、RT-2)と言って、2026年以降に開始するファンドに利用を推奨する(というか、そんな巨大な投資資金をバックにした業界圧力団体の声だと、ある意味強要される)レポート様式とその報告内容、というのがあります。まぁ、これは私とこの半年の間にお話しした GPや一部のLPの方には話しましたが、その変更の大きな目的の一つが、ファンドの費用項目の細分化による、費用の使途の説明責任の増加、もう一つがファンドの募集時に特に、ファンドのパフォーマンス指標の開示項目の拡充、というものでした。
そこで、今回も解説をしようと試みている、Performance Template ver 2.0(略して PT-2にしましょうか)です。要はパフォーマンス指標、以前の記事でいういくつかのアルファベット・スープの具、の計算に利用する数値の整理や、上記のレポート中で拡充されたパフォーマンス指標の計算ロジックを定義し、計算方法をある意味開示しています。
じゃあ、何を作るべきかみてみようか
以前の記事で、パフォーマンス指標として
- IRR
- TVPI
- DPI
- RVPI
が、一般的に使われる指標という説明をしました。しかも、これ、キャッシュフロー(と、まだファンドが途中ならば、その基準日時点の持分の評価額)があれば全て算出が出来る、という話もしました。
さて、PT-2では、マネジメントフィーを払っているLP投資家について計算すべき、なんてことが言われています。ということは、GP やその役職員の持分から出てきているキャッシュフローは外す必要があります。そうですよね。フィーの負担のない人たちのキャッシュフローが入ると、その分のマネジメントフィーのインパクトが混ざってしまうからです。実際のところ、投資家だって参加するタイミングでキャッシュフローが異なるので、一つのファンドの中でもそれぞれのLPやGPによってIRRやTVPIなどが変わってくるのは容易にわかるところです。このような説明をすると見えてくることは、上記のRT-2の目的の一つであった、ファンドの募集時のパフォーマンス表示において、投資家が本来知りたいものは、ファンド全体ではなく投資家として入ったらば、という視点に寄せるため、マネジメントフィーを支払った投資家持分に関する表示を求めることだということです。
また、PT-2では、上記のマネジメントフィーの議論に取り組む、ということは、ではこのマネジメントフィーやキャリー、そしてファンドの運営費用の影響がなかったら、ファンドのパフォーマンスがどうなったのか、という Gross ベースの指標を作ることを求めています。まぁ、GPがいなければそのパフォーマンスは作れないのですが、他方で、投資資産が純粋に作り出すリターンとマネジメントフィー控除後のパフォーマンスを比較すると、ある意味その差分が費用であるから、どれくらいの費用を要したのかを炙り出したい、という意図であることも見えてきます。まぁ、あとでこの辺りは議論しますが。。。
さらに、PT-2では、サブスクリプション・ファイナンスに代表されるようなファンド・ファイナンスによるパフォーマンスの影響を計測しようとする要請も起きています。日本国内でもサブスクリプション・ファイナンスを活用するGPスポンサーも増えてきていますので、LPから見るとドローダウンが掛かっていないのに投資が先行している、というファンドに投資した場合、LPのキャッシュフローと実際の投資とファイナンスの費用発生が一致しないため、LPキャッシュフローだけではGPの投資能力の評価が出来ない、とまぁ、全くな理由なのはわかります。
ということで、こういった、色々な経理情報を整理する必要があるわけですが、現実に照らし合わせて計算ロジックについて二つ準備されています。Granular と Gross-up の二つです。Granular は、文字通り “粒度の細かい”、ということは、詳細情報を全て取り込む、という意味でして、いわば、RT-2で求めているようなファンドの費用等の細分化の結果、どの費用を Gross レベルのパフォーマンスに取り込むか、ということを判断しながら計算できる、というモードです。ある意味、ファンドの経理情報から作れる一番正しいもの、とも言えますし、ファンドアドミの腕の見せ所、とも言えるところです。
それに対して、”Gross-up”はファンド・オブ・ファンズやセカンダリーファンドのように投資先がファンドになるため、そこでの費用情報等が見えづらくなるため、実際の費用控除後のキャッシュフローから逆算される費用控除前の差分を上乗せして Gross レベルのパフォーマンスを作る、という手法です。ある意味次善の策とも言えますが、理論値だけで議論する人たちですとファンドが投資先であっても情報開示するのだからそこから情報を整理して Granularに出来るだろう、と尤もらしいことを言いますが、じゃあ、お前が全部の情報を切り分けて出来るか?そもそも、自分たちのファンドであってもこれまでそこまでの精度での報告をしていないじゃないか、というのをLP投資家さんに一旦怒られてからこの議論をしましょうか。
要は費用対効果であったり、基準日から投資家報告までの限られた時間の中で何をどこまで出来るのか、を考えるのも大事、特に今の日本なんかでは労働基準法をちゃんと理解して仕事するならば、月に30 時間、年間360時間しか残業させてはいけないのですから、その時間をうまく利用する、という効率性を考慮した仕事の配分をマネジメントには求められているのであって、意味もわからず脳筋で「べき論」を原理主義みたいにかざしてスタッフにだけ残業させて自分は飲みに行って結果を求める、は令和の今を生きてないし、実務の負荷と動かしているプロジェクトで想定される負荷とを把握した上でのリソースマネジメントが出来ていない管理能力の欠如の証拠、なんですよね。そういう奴は労働基準監督局あたりに。。。
ん?なんの話していたっけ?ああ、Gross-upか。そういうことで、直接株式とか資産を保有するときは使えないけど、それ相応の理由があれば使えるやつ、として覚えておきましょう。
さらに、PT-2では、ファンドとしての評価だけでなく、投資ポートフォリオの実現済み、未実現、ポートフォリオ全体、のそれぞれでの費用控除前と費用控除後を出せ、とまで言っているのです。まぁ、確かに、投資ポートフォリオとしての評価はしたいところですが、つい数段落前に書いたことをちょっと考えてみてください。IRRとかTVPIとか、今まで投資家のキャッシュフロー履歴を使って計算してきましたが、投資ポートフォリオになると資金の出入りを見るポイントが、ファンドと投資家との間のフローではなく、ファンドと投資先の間のフローを使うことになります。そうなると、あれ?そもそもマネジメントフィー控除の概念が入ってこないことになります。そうすると、Netってなあに?ってことになるのです。実際のところ、ILPAのPT-2の資料の中でも、上記のように記載したIRRを Grossとして表示し、そこから毎年2% のマネジメントフィーが掛かるのだからそのまま 2%引けばNet IRRとして表示する、という趣旨の解説をしていますし、MOIC (Money on Invested Capital: 投資資本に対する回収資金比率、要は何倍に資金が増えたか、なのでここではTVPIと思っていいです)についても同様の理論値で計算を、というのですが、無理筋であることが見えているので、Netについては投資ポートフォリオ全体にのみ要請をされている、ようです。まぁ、それも、US-SECの Marketing RuleというILPAがこの新しいRT-2を法的根拠として推し進めたかったのに完全には施行されなかったものに依拠しているのではありますが。。。
まぁ、こんな感じでPT-2ではファンドやポートフォリオをさまざまな形で分析して投資家やその候補に対して開示する必要が来年以降必要になる、というのが見えてきました。
待って、これをするために必要なのは。。。
前述のように、従来のNet IRRなどの計算のための単なるキャッシュフロー情報(いつ、いくら入った?出た?)、では足りなくて、キャッシュフローの意味づけをちゃんと使って補正をあれこれしないといけないことが見えてきます。こうなると、SSoT (Single Source of Truth: 単一の信頼できる情報元)が会計情報しかないことになります。実際、GP側で投資パフォーマンス測定システムを作ったことがあるから言える話ですが、GP側でこれを作ろうとしても自分たちの指示情報から作るよりも、一番正確な情報であるアドミの経理情報に合わせるしかない、というのが実態だったのです。特にLPからの入金情報というというのは銀行の着金に合わせて考える必要があるわけですが、海外送金というは国内の全銀システムのようにその日のうちにリアルタイム決済されないため、入金日とそれを使える日というのが1営業日以上ずれることが多いこともあり、そのキャッシュフローはいつ何が起きたか、の把握を最初にできるのが銀行の通帳からの情報から切り分けるべき、ということになるからです。
次に大事なのが、特にキャピタルコールにおける利用使途の切り分け、です。ご存知の通り、日本の実務的なコールの仕方は、コミットメントのx %、で、投資実行したところで投資実行報告を行うことでどんな投資をしたか、はわかる、し、契約書から一般的なケースならば年2%の運用報酬が取られるから、それに使われて、ということを予想できるし財務情報からも費用計上されるからそういうことね、まではなんとなくわかります。でも、お金には色がないから、ということでやっていると、運用報酬以外の費用と投資向けの資金とがごっちゃになるのでファンドの維持費用の予算が立たず(はい、投資側が急な投資をする、というあれですね。しかも資金回収は出来ると言って、予定通りに出来た試しなんて正直ないですからね)に後々ハマる、というのも、まぁ、痛いほど見ましたね。ということで、どちらかというと、キャピタルコールの時に
- 半年/一年分の運用報酬の先払い金額(ま、フィーを支払う投資家のコミットメント総額に 2%を掛けて、1/2するかしないか、なので計算は簡単です。)
- 半年/一年分のその他運営費用の見積もり(アドミ費用や事前に交渉して決めておくべき監査報酬費用、それに関連した法務費用、ケイマン諸島ならば年次登記手数料やCIMA向けの年次届出手数料、AML関連費用やファンドのGPの取締役報酬・運営費用、など、あらかじめ見積もりを取れば毎年発生するものは大抵予算作成可能。)
- (設立初年度は)LPAに記載の費用上限を踏まえたファンドの設定費用まわり
- むこう1-2ヶ月で投資実行が決まった投資のための資金
- サブスクリプション・ファイナンスへの返済のための資金(元本と利息は分けたほうがいいかも)
とに分けて行うことで、LP投資家側のキャッシュフローの性質がはっきりするので、Gross / Netの計算がしやすくなる、のです。
事実、PT-2の計算サンプルを見ていると、GP向け運用報酬/マネジメントフィーと、運営費用については、(ファンド・ファイナンスの影響の如何に関わらず)ファンドというかフィーを支払う投資家持分に対するGrossの計算から外していますが、Netでは入れています。もちろん、投資目的の資金は Gross/Netともに入れています。
まぁ、日本式でやった場合のように使途がはっきりしない場合には、working capital扱いで一旦Gross/Netともに計算上勘案されるようにして、後から投資なのか費用等なのかがわかったところで振り分ける、という処理を行なっています。そうなると、それまでの期間において払い込んだキャッシュフローも計算で扱われるのでIRRにしてもTVPIにしても、Grossは当然のこと、Netでも計算上不利な扱いになるのも確かです。その点、使徒を明確にしたコールを掛ける方がマーケティング上有利に働く、というのは覚えておくといいでしょう。
他方で、サブスクリプション・ファイナンスによって借り入れた資金や運用報酬、運営費用等については、ファンド・ファイナンスの影響を含めない(ということは、ファンド・ファイナンスのキャッシュフローも入れた実際のキャッシュフローを取り込む)シナリオでは勘案する(けど、Grossならば運用報酬や運営費用等は入れないし、Netならばこれらは入れる)し、キャピタルコールで受け入れた資金でファイナンスを返済したらそのキャッシュフローも入れるけど、影響を含める(ということは、旧来のようにLP投資家とファンドとの間のキャッシュフローだけを見る)シナリオだと、サブスクリプション・ファイナンスの貸し手とファンドとの間のキャッシュフローそのものを見ない、ことになります。まぁ、影響を含めるシナリオでも、サブスクリプション・ファイナンスの貸し手への利息・手数料の支払いについてのキャピタルコールは「影響ある」シナリオの Netでは入れて Grossでは入れない、「影響を含めない」シナリオでは Gross/Netともに入れない、という、論理的には正しいけど、ちょっと特殊な扱いをしています。
ちょっと余談ですが、この影響を踏まえて、サブスクリプション・ファイナンスがウォーターフォールのハードルレートにどう影響が出るのかを見ることができそうな気がしています。というのも、サブスクリプション・ファイナンスの結果、利息・手数料が上乗せされたドローダウン総額にハードルレートを掛けてウォーターフォールの有線分配を受けるわけですが、他方で借り入れたことで全体的に投資家のキャッシュフローを後ろにずらし、回収までの期間を縮める効果があるわけです。これはあとは利息・手数料がどれくらい上乗せされた、かなども含めて評価すべきところかもしれませんが。。。
ポートフォリオの分析については、まぁ、シンプルです。
投資元本は当然入れて、現金として受け取った配当金や利息等の収入や、資産売却に基づく代わり金、売れていないならその時価評価を入れて IRR計算や MOIC/TVPIを計算すればいいのです。
厄介に思われる、FoF投資した時などのファンドからの株の現物分配や投資先からの株式配当については、ファンドで受け取った時はまだインカム等の考慮に入れられず、それをさらに投資家に現物交付したときに初めて投資が回収されたとして、その時の時価で評価することになるルールにしています。これは 実現済みポートフォリオも、投資中も、全体も同じ扱いだそうです。ま、当然ですよね。Grossですからね。
まとめ
多分、日本語で初めての試みをいつもの調子で行ってみましたが、基本的に、管理する情報の粒度を上げない限り、これは絶対にできない話であり、また一手間かけた細かい配慮をすればそれだけマーケティング上有利なパフォーマンス指標を作ることも可能になる、ということも見えてきました。そして、そのための情報管理はファンドの経理情報をいかにパフォーマンス指標の計算に転用できるようにデータ構造を考えた方法が必要、ということでもあります。GP単体でこれを整備することはスタートアップの運用チームでは難しいので、こういうのも含めて、これが出来るアドミを採用する、という考え方も出来るでしょう(ちょっと宣伝?w)
言い換えると、自分たちの運用の評価のために、よりシステムアプローチが必要であり、日々の情報の品質管理の維持、も大事、ということであり、その体制ができないならば少なくとも海外(や、もちろん国内)の大口投資家へのアクセスが出来なくなりつつある、ということと捉えてもいいでしょう。
また、投資を評価する側からしたら、最低でもGranular なのか Gross-upなのかは計算方法は確認すべきですし、ILPAのPT-2に準拠した計算をしているか、というのも確認しないと他のファンドとも比較できないことにもなります。もちろん、このルールの中ですら、計算方法に多少の裁量が働く場合もありえます(例えば、recallable distribution / 再投資可能な分配金のキャッシュフローをGrossで記録するか、それとも入れないか、は実はまだ裁量として残っていて、当然ですが、Grossの方が不利です。)ので、そういうところもパフォーマンス指標を見るときに確認することで、GPやそのアドミの情報管理能力やシステムへの投資、あとそれをきちんと理解して計算しているIRチームなのか、まで見通せることになります。
ということで、日本から見ると、どこを目線に戦うか、の線引きをまた一つされた、と考えさせられるPT-2 / RT-2 ということと、個人的には受け止めています。
あ、ちなみに、Capital Call and Distribution notice templateも出てきましたね。読むものがまた増えてしまった。日本の投資事業有限責任組合の新しい雛形契約書なんて後回しだな(笑)

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