こんなふうにファンドの作り方や運用方法のことをいろいろなケースを経験した上で色々書いていて時々、すっかり忘れるのですが、人生で人がファンドを作る機会って何回あるのでしょうか。
実際のところ、起業と同じくらいというか事実同じなので、起業家が会社を立ち上げるのがほぼほぼ1回しかないのと同じように、仮に人生の選択を間違えて金融の世界に足を踏み入れてその中の普通な人生を送ったとしてもまずファンドを立ち上げるようなことはなくて、その中の特殊な世界である運用する側にいると、要は人生の一大事なくらい大事な大勝負、という感じでやっても1-2度くらい、で終わる人が大半で、もしうまくいくと、次にこんなアイデアで成功してみよう、と他の戦略を立ち上げ始めたり、投資期間の都合で次に立てないと従業員や自分の家族を養えない、といって立ち上げた結果として、長い人生で10本までたどり着く人というのは、そんなに居ないはずです。まぁ、大手運用会社が色々なテーマで投資信託を立ち上げたりすることでそういう企画をする人はそれを生業としているのもありますし、VCの世界で連続起業家が存在したり、複数の事業を並列して行える経営者がいるので、常に主張している「ファンドも企業も同じ」に通じるところでもあるわけです。
とすると、どうしてもファンドをどうやって作るか、というのは運用する側の自分の都合がだいぶ色濃く出ることになりますし、その成功体験を持って「自分はこうやってきた」なんてnote あたりに偉そうに有料記事を書くような事態にすらなるようです。現実、アドミとか弁護士さんのような立場だと、日々ファンドを作って運営して、なんてことを毎日しているので、そこからみたら、有料にするほどのシークレットでもなくて、ただのone-offのその人たちの特有なケースでしかないのです。まぁ、それをカスタマイズ、と呼ぶわけですがどうもそれを世界の真理みたいに語りがちな人が多いようです。
他方で、投資する人にとって、ファンドを選ぶ、というのは、そのファンドのスポンサーである、ファンドマネジャーやGPの能力を問う、一方で、投資先の国や、社会環境、さらには、事業環境や法制度、さらには税金にも左右される以上、そういう投資する立場や事情も勘案しないといけないことになります。

そうすると、ファンドのスポンサーの能力とも言える、投資戦略や、そのポートフォリオの内容の良し悪し、をどうしても見ることになるのですが、それと並行して(まぁ、実は上場株式とかの世界でも、特に国境を越えた投資をする場合には等しく当てはまるのですが)、そういう能力もさることながら、ファンドというのはスポンサーが投資家のために投資先へ用意したアクセス手段であるため、投資スキームの良し悪しも投資回収時のパフォーマンスに大きく影響する、と言ったらどう思うでしょう。スキームはスポンサーの人生で1回か2回「程度」の経験に基づいた思い込みと都合に左右される、という言葉、覚えていますか?
Simple is best とは?
普通に考えると、投資するときにまず考えている、どれだけのリターンを取れるか、という目で見ると、余計なものを入れないことがコストが掛からない、というのは直感的にわかります。ということは、投資家と投資先を直接繋げるのが一番早く、それってSMA(Segregated Managed Account:分別管理勘定) と称される、ファンドスポンサーがそんなSMAに投資指示を行ってそれに従って投資資産を直接保有させたり、一任行為としてスポンサーがSMAの代理人として資産取得・売却の契約を締結して、SMAがそれに従って投資対象資産と資金を決済する、のです。個人で言えば、自分の証券勘定で株を売ったり買ったりするのに誰かさんのアドバイスを受けてやるようなもので、日本ならラップ口座がこれに近しいでしょう。まあ、ラップ口座も世界中のすべての商品にアクセスできず、事前に選ばれた商品に(本来の意味での)適当な配分で投資されますので、アクセスできる商品に限りがあるのですが。。。
でも、そんな解決方法は、超巨大な資産を有する投資家にしか機能しないし、ファンドという議論からちょっとだけ外れるし、下記の議論を踏まえると、結局ポケットから直接と行ったところで、色々と手当する必要もあるのでその意味では費用対効果って議論で言えば、あーあ、金持ちってのはいいわね、と思って次にシンプルな方法を考えてみましょう。
シンプルになるにはそれなりの理由がある
とすると、投資家と、投資先の間に、ファンドを一つだけ挟む、という至極ファンドな話になるのです。でも、これが機能するケースって実は極めて限定的、なのはご存知だろうか。
「え?自分たち、国内投有責でやってますよ。」(多分、国内籍投資信託しかやったことのない人も同じ罠に引っかかります。)
と思ったあなた、ええ、よく考えてみてください。
- 投資先はどこ?日本国内限定ですよね?(投信だと、海外もある、というでしょうけど、言ったところで契約型のファンド一択ですよね?)
- 投資家さんは?日本国内ですよ?(海外がいる?なら、あとでこのリスクを説明しますね。投信の方、そもそも証券会社さんか銀行さんに口座のある人たちだけですよね?)
- GPは?日本ですよね?
はい、だから、成立するんです。
言っている意味がよくわからない?
では、スキームを考えるにあたって抑えるべきポイント、というのを見ていきます。
見るべきは、税金
もう、このブログを通じてファンドで一番大事だと言い続けていることは、ファンドを通じて投資した際の税金をいかに合法で安くするか、です。そのため、税金の発生するポイントがどこなのかを理解して、そこでの最適解を考えるのが、一番目にすべきことなのです。
で、その論点で見たときに一番気にするべきは、資産の取得や売却時のキャピタルゲインの課税主体がどこにあるか、です。
言い換えると、資産売却時にどの国が課税できるのか、です。日本の資産を売却する場合、国内に恒久的施設が売却する(居住者であるか、非居住者だけど国内に経済活動を行う拠点を有している場合)と、国内でのキャピタルゲイン課税が、個人なら所得税として、法人なら法人税として課されるのです。もしその投資家が国内であれば、いわゆる組合を通じた保有の結果の売却であればその課税はその組合員が行うことになるのですが、かかる資産を保有するファンドが(その形態が組合であれ、信託であれ、なんなら会社であれ)が国内に恒久的施設がない場合、世界的なルールに従えばその所有者の課税国が行うので、それぞれの国のルールに従えばいい、という話なのですし、信託だったら法人信託課税の形で信託で納税するか、証券投資信託のように受益権の取得価格と売却価格の差額に対して課税するから信託レベルでは課税しない特例が適用されるか、という議論をしていくことになります。
ですが、ここで、日本において株式に関してだけは、特殊な事情があるのは注意が必要です。組合を通じて発行株式の25%以上を所有していると、海外は知らないけど日本では(2005年の新生銀行の最初の再上場の時に政治的な取り扱いがされた結果)資産である保有株式を5%以上売却をするとそのキャピタルゲインに対して所得税なり法人税が課される、という悪名だかき25%/5%ルール(もしくは、事業譲渡擬似株式譲渡に対する課税)というのが存在します。これは、債権(や債券)や不動産には適用されません。とはいえ、この25%/5%ルールの結果、日本から未上場株式に対する海外投資家が離れていったという事実があります(無論、この法制度が入った前後でいわゆるリーマンショックがあったり、未上場企業の成長への期待感の薄さなど、色々と理由を挙げることは可能ですが)。
不動産については対象資産を一旦国内の法人(TMK: 不動産流動化法の特定目的会社、や、GK:合同会社)に保有させるというのがファンドの世界では極めて一般的ですね。そのため不動産のキャピタルゲインは国内の所得税法等に基づく処理になるわけです(確か)。
続いて、保有時の資産から生じる収益に対する課税、にも目を向けましょう。株なら配当金や株の品貸料、債権なら利子収入、不動産なら賃料収入、細かいことを言えば、余剰の資金は銀行に預けた結果生じる利息ですね。これらは、株式や銀行であれば源泉徴収を普通に(銀行や未上場株式の配当ならば支払い元、や上場株式や債券ならば、その資産を保有する証券口座を保有する証券会社で)しますので、国内であろうと海外であろうと違いはありません。債権の利子支払いと不動産の賃料収入については、いわゆる源泉徴収を司る法律(所得税法と、租税特別措置法という長ったらしい税法ですね)によると、国内非居住者への支払いについては、支払い元に源泉徴収義務が生じるのです。そのため不動産投資の場合、主だった投資のリターンがこの賃料収入から生じることを踏まえて、この源泉徴収義務をいかに減らすかが論点になります。とはいえ、です。不動産の場合だと、賃料が投資の生命線なので大事ですが、債券ファンドなどの場合、最終的な元本からのキャピタルリターンがより投資におけるインパクトが大きいので、源泉徴収義務のためにファンドの設立地をどこにするか、という議論をするよりキャピタルゲインの課税リスクで設立地を考える方がよりメリットがあるともいえます。
ここまでは、ファンドが資産をどうするか、というところの議論でしたが、課税の論点はそこだけではなく、そのファンドが投資家に対してその利益を移転する際における課税もポイントになります。どういうことかって?投資事業有限責任組合や、そのご先祖である(民法上の)任意組合は、組合員課税とされていますので、上述のそれぞれの利益に対する課税は、組合レベルで課税されるのではなく、それぞれの組合員にその利益(とその利益を得るためにかかった費用)を組合契約に基づいて、その発生した財務期間において分配され、組合員はその配分された分について組合員の納税時に自己勘定と合算して組合員が、個人なら確定申告で、法人なら年度末を受けて法人税申告において、それに応じた納税をすることになります。そのため、国内投資家が国内投有責を使って投資しているのは、あたかも自己勘定での投資をしているのと同じ税効果になることから、毎年毎年、ファンドの管理手数料や事務手数料、ファンドの監査費用、といった、ファンドという器を使った都合で生じた経費を自己勘定の経費に取り込むことが可能となり、他方で、毎年毎年、こんな細かい損益の取り込みをして税務申告をすることになるのです。
もし、これを(商法上の)匿名組合を使いますと、資産の如何を問わず、利益相当額については20.42%の源泉徴収が否応なく掛かります。
あと、みんなの大好きな投資信託についても、上場株式や社債を保有するものなら、その投資信託の持分の売却時にキャピタルゲインや利益相当部分に対する配当に対して個人なら 20.315%、未上場株式などだと 20.42%、法人だと15.315%、が掛かります。
ついでに、不動産向けのJ-REITや私募REITだとこれもやっぱり上場株式等投資信託と同じだけ源泉徴収が掛かりますし、よくいう TMKだと、ざっくりいうと、その優先出資証券を50%以上非居住者が保有していないことで特定目的会社の特例に基づくみなし配当課税の回避が出来る前提で、年間の配当可能額の90%を超えて分配する限りは配当を損金算入が出来ることによってTMKにおける課税所得が0に出来、その結果として優先出資証券の保有者への配当に対して20.42%の源泉徴収課税をすれば良い、とされています。
なので、海外から日本国内での不動産投資を行う場合には、海外にある日本の資産保有ビークルによるTMKの保有持分を49%として、残りの51%を国内の保有ビークルに一旦持たせて、その利益移転を配当ではなく匿名組合出資による配当の形をとることで、ここの部分だけは20.42%の源泉徴収を2回されても仕方なし、とすることで税負担効果を減らそうとしている(TMKレベルで法人課税されるのを回避する方がより税負担が少ない)、のです。
まぁ、TMKの設立・維持費用(何せ、不動産特定事業法に準拠するために、国内のオペレーターや保有ビークルの持分の販売のための届出まで必要になりますからね)を踏まえて、不動産保有を合同会社形態の保有ビークルに持たせて、そこへ匿名組合出資することで、源泉徴収されてもやむなし、と割り切るケースというのも、散見されています。
投資家の多様化の意味するところ
ちなみに、ここまでの議論は全部国内目線でやっています。ということは、わかっている人は、ここに一つ議論が抜けているのがわかると思いますが、その点はあとちょっとで触れますからね。
さて、国内投有責も考えてみましょう。ここでこんな声が出るのがわかります。
「(上述の事業譲渡擬似の株式譲渡課税の)結果として、海外の投資家が出資の結果、投資先の株式を25%を超えて持たないなら問題ないじゃないか。」
それはここまでの議論がすべて日本の器での観点でのみやっているからです。投資家の海外資産収益に対する課税のルールの検討をしていますか?日本では課税しない、といっているだけで、投資家の課税ルールとして海外資産に懲罰的課税をする(って、みんなの大好きで夢の国、最近ではアンクル・サムではなくてアンクル・ドナルドなアメリカがその海外資産のうち、フロースルー課税させないビークルへの投資をしている場合には、キャピタルゲインの全額以上の税金をかけるという PFIC(Passive Foreign Investment Company: 受動的海外投資会社)という議論や、米国投資家のうち、年金組織や個人の退職金を管理するIRA の口座のように免税措置を受けているスキームに対して、その投資資産の中に免税対象以外の収益が発生するとかかる免税措置がなくなるようなUBTI(Unrelated Business Taxable Income: 無関連事業課税収入)という議論なんかがあります。)場合もあるので、投資ビークルへの課税について、海外投資家のほうで一から調査をしてもらって税務リスクを外す措置をしてから投資をさせる、もしくは後から課税イベントが発生して、その結果として課税されちゃって、あーあ、となる、というクロスボーダー課税のリスクを投資家に負わせているんですよね。ね?GPの都合だけってそういうことなんですよ。
さらに言えば、租税条約、なんてものが地球上のあらゆる国と国の間に存在するので、日本とその投資家の投資する拠点との課税権と税率の減免を確認することにもなるので、ファンドの運営で個別対応の工程が増えることになります。無論、それをうまく使って先ほどのTMKの源泉徴収を20.42%から5%に落とせる国から出資させる、なんて技も出来るのです。
なんにせよ、投資家にとって、その自国内の資産に対する投資において、適正なビークルを利用した投資、であれば器を一つ入れた程度なら手間賃を払うくらいのオーバーヘッドコストしか掛からない、と理解してよさそうですし、それってこれだけグローバルに投資家と投資資産とが組み合わさる世界においては、本当に特殊な組み合わせでしかない、のです。
ちなみに、そのオーバーヘッドコストですが、一番大きいのは、運用報酬ですよ。よく(特に、先日三菱UFJ信託がプライベート資産のアドミ業務に乗り出すという日経の記事を筆頭に、市場内で闇雲に、かつイメージだけで)アドミコストが高いとか言いますけど、大きく見えるのはファンドサイズが二桁前半億円のような、本来ファンドとして経済的効率性と商業的意味の両方の意味が出ないサイズでやっている場合に起きる話です。そのサイズになると、アドミの費用も監査の費用も似たようなレベルですので、どうしますか?監査は不可避ですから払うしかありませんが、自分で苦手な事務やって事故りますか?ファンドサイズを大きくしますか?
シンプルにならない理由とは?それと誰都合で誰得?
さて、時々意味のわからないスキームが登場することがあります。 たとえば、国内投資家が国内資産に投資するのに、投資ビークルがケイマン諸島にある、というケース。ファンドの世界で言えば、海外ファンドが主戦場な時間がほとんどの私の観点ですら、なんで?と思います。確かに、J-REITの仕組みのない頃に、法制度が存在しないからバーミューダ籍の投資信託を作ってそこから国内の不動産保有ビークルに投資をする、という投資スキームを運営したことはありますよ。でも、それは当時のファンド関連の法制度がまだ確立していなかったから、だけで今は、ちゃんとJ-REITなり、不特法なり、不動産流動化法なり、ちゃんとあるのでそこを使えば一番効率的、なのです。としたら、考えられる理由は、GPスポンサーの都合が割と多めです。
よくある、妥当な(?)理由としては、ケイマン諸島に海外投資家を中心としたファンドを作ったのでそこに国内投資家も入ってくれたら効率的だから、です。うーん、わからないでもないけど、国内でパラレルファンド作れないのかな、と思うと、大抵の場合「国内は資産を買うためだけのチームなので、ファンドの設立や管理・運営を一元化している海外拠点ではできない」と言います。えっと。。。国内の金融商品取引法上の事業登録は?ああ、国内はリサーチだけ、って名目ね(そんなに規制リスクが嫌なんだ。まぁ、私も逃げ回っているから(笑)わからないでもないけどね。)。なら、別の運用者でトータルコストの安い方に行く、それともこのマネジャーのリターンがより魅力的?って選択肢を取りたくなりますね。
シンプルになれない理由:やっぱり税金
他方で、米国籍のファンドや資産に投資するときに、ファンドと投資先ファンドや資産との間に一つデラウェア州籍のLLCを挟む、なんてことを見るかと思います。これもなんで?余計なレイヤーが入る、イコール、余計なオーバーヘッドコストを産まない?って思いますよね?
でも、これは入れた方がいいですよ。なぜか。米国の税法というのは日本の税法に慣れた人たちからすると、意味不明なルールがあります。その中で厄介なのが、ECI(Effectively Connected Income: 米国実質関連所得)と呼ばれる、米国内の事業で生じた収入、というのですが、これの課税については投資家レベルで行う、というのです。ん?ちょっとわからないですよね。こういうスキームを考えてみましょう。
シンプルだったからダメだった
日本の投資家が、ケイマン諸島籍のELPS(Exempted Limited Partnership: 免税有限責任組合)に投資して、そのELPSが米国の複数の州に拠点を有して事業を行っているLLC形態(日本でいう合同会社)の企業に投資したとします。その企業の持分に関する年次の納税申告用の資料を見たら、このECIが計上されていた、とします。どうなるか?ケイマン諸島のELPSはパススルーなので、日本の投資家のところに、ECIに関する納税義務がやってくるのです。その結果、米国の連邦政府の税務署であるIRSへの納税申告義務と同時に、ECIを生み出した複数の州政府に対しても納税申告義務が生じ、ということはIRSと州政府にそれぞれ納税もせねばならなくなる、のです!
その結果の被害とは
そのためには、この日本の納税者は、米国連邦政府に、外国企業としての納税者登録をまず行い(日本でいう、給与支払事務所、の登録と同じ、Employer Identification Numberの取得をします)、その上でそれぞれの納税申告をすることになります。が、まぁ、その納税義務は本来は4月、でもそういった米国企業やファンドからの納税申告資料がやってくるのが大体5-7月くらいなので、それをまとめて、9月15日の最終締め切りに間に合わせる必要があるのです。さらに言えば、特に州政府なんて日本の納税と同じく、海外からの送金なんて受け付けませんので。。。どうやって納税するの?ということになるのです。こんな手間、はさておき、税務当局に、外国会社としての登録をすることで、そのほかの所得に対する要らぬ詮索をされるリスクすら生んでしまうことになるのです。
転ばぬ先の杖ならぬ
としたら、こんな税務リスクを回避する方法が必要になりますね。 そこで、デラウェア籍のLLCが登場することになります。一旦、このデラウェア籍のLLCにケイマン諸島のELPSが出資し、このデラウェア籍のLLCが投資対象となる米国内のLLCに投資することで、確かにレイヤーが一つ増えるのでその管理コストが増え、引き渡されるリターンも納税後のものになるものの、その一環としてかかるECIの納税作業を行うことで、ケイマン諸島籍のELPS(と結果として、その裏側にいる日本の投資家の)ECIの課税リスクを除去して、ケイマン諸島のELPSから先での課税を生じない、というものです。これをタックスブロッカーと呼びます。投資だけしている人間からすれば、費用対効果を考えたらパフォーマンスが落ちるだけじゃない?あとはただの事務手間だけで、投資の結果を出さねばいけない自分の成績(となんならボーナス)には関係がない、と言いそうですが、そのファンドのせいで複雑でコストのかかる米国での納税義務と将来の不要な立入検査の権限を負わされる、と言われたら、投資したいでしょうか?少なくとも、投資サイドのバックオフィスからは(お前のボーナスのために踏み台にするのか?と)怒られる案件間違いなしです。
ということで、間に何かを入れる場合には、どういう理由なのかを説明してもらう必要がありますし、逆に上記のような米国投資の場合、間に入っていない場合に、知らないで入れていないのか、本当にECIのようなものが生じないような投資先なのか、は確認するか聞かずに投資しない判断をするか、を考えることになります。
策士、技に溺れる:よくある、実務が回らずに逆にリスクが上がる不幸
さて、こういう話をしていると、ああ、そういうことなら、と、こういう投資には、こんな税務ブロッカーを入れて、当局対応をする必要があるから、ここにこんなビークルを入れて形式上の評価を出させて、などなどの、理由を作って器を増やす傾向にあるストラクチャーというのも世の中には一定数いるのも事実です。 そうなると、ファンドの運営側のキャパシティの問題が出てきます。本当にそれ、回るの?という話です。それぞれのビークルの設立国の規制を遵守しながら、と言うことは毎年毎年財務諸表を作っては、なんなら監査もして、さらには現地の登記の維持のための手続きも確実に行い、いざ資金を動かすとなると、間にビークルが入る分、ドミノ倒しのように資金を手当する必要出るので数日程度前もって手当が必要になるわけですから、そこに投資家さんの資金っていつまでにコールするべきなの?から始めないといけなくなるのです。え?間に合わないからファンドファイナンスでのローンでなんとかする?誰がその繋ぎ資金のローン契約をアレンジするの???
と言うことで、投資チャートを見て複雑なスキームを導入しているところを見たら、費用対効果って出ます?と同時に、御社の管理体制、聞かせてください、なんならファンド・コントローラーやアドミにインタビューさせてください、と確認する必要が出てくるのです。
ちょっと待って。このスキームの良し悪しの議論ってファンドの設立地の良し悪し、って単純な議論じゃないの?
ここまできて、この議論に、ケイマン諸島最高、なんて話を誰もしていませんよね?(無論、日本の投資事業有限責任組合が至高のスキームともいう気は元々ありませんけどね) もちろん、米国資産への投資の場合ならば、デラウェアを使う理由がある、としましたが、これはもちろん米国資産への投資が前提にあるので、これがもし南米の資産だったら、というと、話が変わってきます(この場合、噂ではカナダはオンタリオ州籍のファンドがいいらしい、という租税条約上の議論があるそうですが、残念ながら私はやったことがないので。。。でも、そういう話です)。
そうなんです。ファンドというのが、投資家と投資資産を結ぶ話であるため、税金がまずどうしてもドライブする話にならざるを得ないのです。そのため、ファンドを設立しようというときに、一番考えなければいけないのは、どこに投資家がいるのか、と、どこの資産を取得するのか、なのです。
ということなのですが、国内だけで閉じていた世界ならまだしも、さあ、海外投資家からファンドレイズするぞ、といった時、この議論をするにあたって一番抜け落ちる論点が「どこの投資家を連れてくる」です。
もちろん、夢は「世界中の投資家から集めるんだ!」でもいいんですよ。でも、現実的に、世界中の誰にも共通した税務スキームは存在しません。租税条約って二国間の取り決めがバラバラだからに他ならないからです。そうですよね、あの国とは仲良くするけど、そっちはそこそこでいいかな、って話であって、世界中どことも、なんてのは、ケイマン諸島やBVIといった、むしろ特に租税条約上の減免しない代わりに国内での課税をしない税務上中立(tax neutral)な国の手法しかないのです。G7諸国をはじめ、これらの国をタックス・ヘイブンだ、日本に至っては英語が正しく使えないからタックス・ヘブンだ、とか言いますが、こういう国のおかげで投資資金がちゃんと、しかも大きな流れを作ってくれるメリットがある、というのは、旅客・貨物それぞれの航空機と空港間の関係性として表される、ハブ・アンド・スポークのおかげと理解すべきなのです。
とすると、です。税務スキームを考えるにあたって、投資家のプロファイル(せめて、北米か、欧州か、アジアか、また、税務的特徴: 年金のような免税かどうか)をまず決めないと何もできないことになります。
よく、「それもそうだけど、AIFMD/UCITSのような国や地域における金融法規制を考えるべきじゃないの」という話も出ます。特にヨーロッパの主要なファンド設立国のファンドの業界団体はこの辺りを全面に押します(最近はとある小国から熱烈なアプローチを頂いています)。個人的にはこれらの地域は嫌いではないのですが、これに対して極端な回答をするならば、「そもそもその地域の投資家がいないなら、そこに器を置く必要性が説明つくの?」なのです。さらにいえば、ケイマン諸島のファンドだって、AIFMの登録をする(Annex IVなどのツールがある)ことでEU諸国でのファンドのプレマーケティングから可能になるのです。なので、メインの投資家がどこか、がまず考えることになります。
投資家目線にもっと寄せて考えよう
さて、ここまでは運用者の目線で色々と考えていきました。では、今度はこの記事のきっかけを作ってくれた投資家の目線での選び方、という話にいきましょう。
運用サイドがどう考えてファンドを作っているのかがわかったところで、それが自分たちが投資したい先の国や資産クラスにあったスキームかどうかを考える必要があります。実際、アンカーで入るならば、ファンド組成の時点での投資家のプロファイルとして自分たちを念頭に置いてくれるわけですからちょうどいいわけですが、なかなかアンカーで入る、もしくは入れることはないのも実際です。
そうすると、自分たちにとってのスキーム上のメリットがどこにあるのか、で考える必要があります。ここまでの議論を踏まえるとなんとなく見えてきますが
シンプルであること = 全体的なオーバーヘッドコストが少ない
税務リスクをファンド側で押さえたものであること = 将来の税務リスクやパフォーマンスへの影響が担保されている、租税条約上のデメリットがないことが見えるかどうか
が、まず大事になってきます。その上で、日本においての議論になるのですが、そのファンドのスキームが自分たちの投資実務上や会計上の取り扱いや法制度上の制限にも影響があるため、これも考慮すべきことになります。
スキームをおさらいすると
どういうことか、というと、日本において
- 会社型は、ETFやJ-REITのようなものくらいがファンドに使えないのですが、その代わり上場株式と同様の取り扱いができるのでそこが事務的にも、会計上も取り扱いやすい商品である、というのは大きいのです。他方で、これをシンガポール籍のVCCにしましょう、とか、ヘッジファンドのトレーディングビークルとして使われるケイマン諸島籍のSPC (segregated portfolio company)、というと、税務上の取り扱いが海外株式の議論になるので、ファンドの場合だと米国上場株式と異なり、どうしてもタックスヘイブン税制の議論の対象となるので、未配当の利益の課税取り込みが発生する、などの面倒も発生することになります。
- 組合型は、投資事業有限責任組合などの実務は確立していますが、パススルー税制の都合上、資産・負債・損益の取り込みを毎年行う必要がある、というのが実際に事務上・税務上の負荷を起こすのは事実です。現実問題、組合投資を一つ二つ程度するならばまだなんとかなりますが、ポートフォリオを組んだ結果80ファンドの投資をした、となると、80ファンドの経理取り込みからキャピタルコール・分配処理をする、というのは現実問題としてなかなかの負担になります。さらに、上場株式等の投資にこれを採用するところはあまりないので、どうしても実務としてのプロセスの確立、という点でも構築が難しいところです。
- 契約型、すなわち(国内・海外籍)投資信託を使うと、有価証券扱いが出来るのでパススルー税制への対応のような資産・負債・損益の通年取り込みをするのではなく、受益証券のNAVの変動を資産評価未実現損益に入れればいいことになります。これは、結果としてファンドの中にある利益や損失に対する課税の繰延効果でもあるので、事務上の負担は確実に軽減されます。他方で、プライベート資産でこれを採用しようとすると、特にキャピタルコールはどうなるのか、という問題が起こりえます。一番簡単な方法として、最初から全額払ってしまう、というのがありますが、資金の有効活用ができない、証券投資信託として認められない(50%以上の有価証券投資が必要)ので法人信託課税が起こる、IRRが落ちる、他方で、キャピタルコールに対応する追加投資、というのが法制度上義務として出来ないので、その手当てなどが契約書上複雑になる、といった無理矢理感があるのも実際です。とはいえ、現実として特金勘定からの投資の形で事務処理の軽減をする、といったソリューションとして使われているのもあるので、機関投資家によるポートフォリオ管理の観点においていえば、プライベート資産投資から排除されるスキームではない、ともいえます。
危険な言葉:de minimis
さりとて、なのです。
投資家サイドで巨大なポートフォリオを作れば作るほど、投資件数が増えていきます。とはいえ、投資する金額は当然まちまち、となると、何が起きるかといえば、全体に対して無視できるサイズの投資に対して投資する際にその効率性とか遵法性などに無頓着とは言わないものの割と気軽になる、という傾向があるのです。そうなると、本来あるべきやり方でなくてもいいや、となる話があるという意味なのです。
ただ、そこで勘違いすべきではないのは、ポートフォリオの中でのウェイトが無視できる程度、であっても、事務は発生するし、その遵法性に対する対応は本源的には必要になる、ということです。それこそ、無視できる程度のものなのに、手間がかかる、というのは投資担当者はさておき、事務側からすればそんなファンドにこんな手間をかけるのか、というネガティブな印象は確実に生まれる、ということです。
また、運用者のサイドにとっては、それも実績と経験になるので、冒頭に挙げたような、それが出来たのだから他の投資家も許容されると思い込むことです。
そうなると、市場のスタンダードとの乖離が両方で生じることで、最終的にリアップしない、とか、そういう投資家しか来ない、といった、回り回ってファンド事業の拡大を抑制する環境を自分で作りかねない、のです。
まとめ:少しは簡単になるかもしれないチェックリストでも
まぁ、de minimis は投資家と運用者のリテラシーの問題として、これを読んだみなさんの問題意識にしていただくとして、本題をまとめるために、こんなチェックリストを作ってみましたので、今後のご参考になれば幸いです。
- ファンドの投資先での課税は?
- 投資家とファンドの間の課税は?
- 投資先の納税義務が投資家に及ぼすような不利な税制が透過しないか(UBTI/PFIC/タックスヘイブン税制など)?
- ファンドと投資先の間の階層とその理由は?
- ファンドの費用構造の妥当性は?
- 投資家の会計上と税務上の取り扱いは?
要は、投資家のサイドから見て自分たちが入りやすくて税務リスクが低いスキームか?運用サイドから見たら、投資家の投資するハードルを下げられるか、ということを確認すると思ったらいいでしょう。
というわけで、ここまで頑張って読んでくれたあなたなら、もう“スキームの顔つき”で良し悪しが見えているはず。最後に、投資家の視点と運用者の視点、二つのチェックリストを並べておくので、仕上げにそっと照らし合わせてみてください。
🎩 投資家サイド
このスキーム、大丈夫?チェック
- どこの国の投資家か — PFIC / UBTI / タックスヘイブン税制の影響がここで決まる
- 投資対象資産の所在国 — 25%/5%ルールや ECI の有無が変わる
- キャピタルゲインの課税国 — 出口で泣かないための最重要ポイント
- インカム課税の扱い — 配当・利子・賃料で税務がまったく違う
- 階層の理由 — GPの都合か、投資家のためか
- コスト構造の妥当性 — アドミ費用が高いんじゃなくてファンドが小さいだけ問題
- 会計・税務の実務負荷 — パススルーは“自己勘定と同じ”という名の仕訳地獄
- ガバナンスが回るか — 階層が増えると監査・登記・資金移動が全部増える
🛠️ 運用者サイド
そのスキーム、本当に回せる?チェック
- 投資家のプロファイル — 居住国・免税主体・会計基準
- 投資対象資産の税制 — 国ごとに“地雷の種類”が違う
- 租税条約の適用可否 — TMK の源泉徴収が 20.42%→5% になる国もある
- パススルーか法人課税か — 投資家の会計処理と税務負荷を左右
- タックスブロッカーの必要性 — ECI が飛んでくるなら必須
- 階層を増やす理由の正当性 — “海外ファンド一本化したい”は GP の都合
- 実務が回るか — 監査・登記・資金移動・キャピタルコール
- 投資家の内部規制 — 海外籍ファンドは買えない投資家も多い
- de minimis の罠 — 「少額だからいいでしょ?」は事故の温床

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