AIMA Japan Forum 2026にケイマン首相が日本に来てくれたタイミングで、
まるで「続きはこちら」と言わんばかりに、Cayman Finance から興味深い数字が発表されました。
2025年の統計で、日本からケイマン籍ファンドへの投資額は 8,530億ドル に達しました。
数字だけを見ると大きく見えますが、その背後には、派手さとは無縁の「静かな積み上がり」があります。
なぜ日本は、これほどまでにケイマンを使うのか。
その問いに答えるためには、制度や税制だけではなく、日本固有の UT と LPS の二層構造、そして世界のファンド制度との“地政学的な位置”を見つめる必要があります。また、2025年のデータは、日本のファンド産業が抱える「missing middle」を静かに照らし出しています。
今回は Cayman Finance の記事を紹介しつつ、日本の投資家がこのトレンドをどう受け止めているのか、そして 国際的にはどのように見えるのかを整理してみます。
2025年統計が示す、日本のケイマン利用の現在地
日本からケイマンファンドへの投資額、8,530億ドルに増加 — Cayman Finance が最新統計を発表
Cayman Finance が発表した最新統計によると、日本からケイマン諸島籍ファンドへの投資額は 8,530億ドル に達し、前年から大幅に増加した。
さらに、
“The Cayman Islands accounted for 62.4% of Japan’s overseas investment fund holdings in 2024…”
Japanese investment in Cayman funds rises to $853 billion
という数字が示すように、ケイマンは日本の海外投資ファンドの主要な受け皿として圧倒的な存在感を持っている。
8,530億ドルという「静かな積み上がり」
主要ポイント
1. 投資額の増加
“Japanese investment in Cayman Islands funds has risen to USD 853 billion…”
Japanese investment in Cayman funds rises to $853 billion
2. ケイマンの規制・ガバナンスへの信頼
3. 日本の運用会社もケイマンを利用
“CIMA data shows 316 Cayman-domiciled funds with Japanese investment managers…”
Japanese investment in Cayman funds rises to $853 billion
—
数字の背後にある構造を見る
この記事が示すのは、
単なる数字の増加ではなく、日本の投資家がケイマン籍ファンドをどのように評価し、どのように使っているのか、という、より深い実務的な背景です。
1. 日本のケイマン利用は “Unit Trust と LPS の二層構造”
日本のケイマン利用は、公募(UT)+私募(LPS) の二本柱で成立している。そしてこの“日本固有”が時に面白い現象を生む。
流動性資産投資を支える UT(Unit Trust)
日本の運用者は、
「unit trust は世界共通語」
くらいの感覚で海外投資家に提案してしまうことがある。しかし海外の GP/LP からすると、
「UT?聞いたことない」
という反応が返ってくる。結果として、
「日本では売れるはずだったファンドが、海外では全く理解されずに終わる」
「海外ファンドを日本向けに作ったのに私募投資信託じゃないから売れなかった」
という話はよくあったし、いまだにその幻想の中で生きている人も多い。
プライベート資産投資を支える LPS(Limited Partnership)
一方で、オルタナティブ投資の拡大に伴い、LPS の利用も急増している。

日本のケイマン利用を支える UT+LPS の二層構造
2. 国別比較 — なぜ日本だけが UT+LPS なのか
以前の記事、Why Japanese – なぜ日本で「投資スキーム = 投資信託」なのか ?などで扱っているように、日本はどういうわけか投資信託が主流なのですが、海外を見たときに、様相が全く異なることがわかります。
では、日本の二層構造を見たうえで、次に世界の制度と比較してみます。
世界6カ国のファンド制度を比較する
🇨🇳 中国:外貨規制 → SPC → BVI
- SAFE(外貨規制)
- 海外上場のための持株会社スキーム
- VIE 構造
- SPC 文化
- BVI / HK SPV が自然に併存
➡ ケイマン一極集中にはならない。
🇺🇸 米国:flow-through 税制 → LPS 一択
- LP/LLC が自然な選択
- UT 文化ゼロ
- offshore でも “Delaware LP の延長線”
➡ ケイマンは使うが、日本のような二層構造にはならない。
🇬🇧 英国:英連邦ネットワーク → Jersey / Guernsey
- LP/LLP
- ICAV
- REIT
- そして英連邦の強力な競合
➡ ケイマンは“数ある選択肢の一つ”。
🇪🇺 EU:UCITS / AIFMD → Lux / Ireland
- UCITS(公募)
- AIFMD(オルタナティブ)
- 欧州パスポート制度
➡ 制度的に Luxembourg / Ireland (他にもマルタやキプロスなど)といったオンショアスキームが強制される。
🇸🇬 Singapore:20年戦略 → VCC → ケイマン離れ
- 2000年代:運用会社誘致
- 2010年代:アドミ人材育成
- 2020年代:VCC 創設
- 受託案件の9割が VCC に移行という話も
➡ Lux 型オンショアモデルに近づきつつある。
🇱🇺 Luxembourg:オンショア型の成功モデル
- ファンド本体を国内に誘致
- アドミ・法務・会計・デポジタリが集積
- 雇用・税収が増加
- 一人当たりGDPは世界トップクラス
🇰🇾 Cayman:オフショア型の成功モデル
- ファンド本体は Cayman に登録
- アドミは国外
- 移民負荷ゼロ
- 登録料・監督料に特化
➡ “雇用を増やさず成功する”稀有なモデル。

世界6カ国のファンド制度比較
3. 日本:どちらのモデルも取り切れていない“中間地帯”
日本は
- 運用会社の誘致
- 海外運用会社の販売拠点
には成功しているが、アドミ人材の育成がほぼ進んでいない。
- 信託銀行への過度な依存が投信への偏重を生んでいる
- バック・ミドルの部分的アウトソーシングが公正な役割分担を生み出さなくなる
- ファンド本体は海外
- アドミも海外
➡ 雇用も税収も国内に落ちにくい。
4. 統計が示す静かな示唆
日本でも、運用会社や海外運用会社の販売拠点の誘致だけでなく、アドミニストレーション人材が流入し、育つ環境を整えることが、ファンド産業の税収と雇用の基盤になるのではないか。
これは誰かへの批判ではなく、国際比較から自然に浮かび上がる現状に対する“静かな問い”と考えてみてください。

Lux / Cayman / Singapore の産業モデル比較
日本のファンド産業は、いま「missing middle」に立っています。
2025年の統計は、単なる投資の国内外のマネーフローを示すだけではなく、その静かな輪郭を少しだけ照らしました。この空白をどう埋めていくのか──それは制度や税制の議論だけではなく、産業としての「深さ」をどう育てるかという問いでもあります。
これからもこの静かな構造を追いかけていきます。
最後に、今回の記事の作成にあたり、原文の翻訳と掲載をご快諾いただいた Cayman Finance に心より感謝申し上げます。
日本とケイマンの金融実務をつなぐ対話が、これからも続いていくことを願っています。
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Fund Structures シリーズ
- Episode 1:ファンドとは何か
- Episode 2:投資家と運用者の関係
- Episode 3:三つの器(UT / LPS / 会社型)

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