資産クラスと投資家のスペクトラム・マッチ

投資する資金を求める人にとって、割と見えていないなぁ、とずっと思っていることの一つに、どう投資家が見ているのか、という視点があるように実は思っています。当然、自分のやっていることは世のため人のため、それに俺って最高だから、という自負もあるので、自分の視点に軸がかなり寄るのは当然だと思います。とはいえ、浅草の(あまり知られていない事実として、創業70年は軽く超える老舗の、ということは、人が思うよりも、ビジネストラックレコードと、それに伴う経験を重ねた)お土産屋としての立場もある私からすると、物売りってファンドもお土産も一緒で、その時に欲しいと思ったものしか人は買わないので、じゃあ、欲しいと思わせるには、というのが大事だ、というのも頭に入れておくべきだ、と思っています。

と思った時に、投資する人の視線に立ってみると、投資をするために(この場合、ファンドだけでなく株式や債券、不動産といった個別の資産に至るまでの)投資対象を選ぶ、というのは、その投資対象から期待できる収益性を問う一方で、投資先の国や、社会環境、さらには、事業環境や法制度、さらには税金にも左右される以上、そういう事情とその将来の変化も勘案しないといけないことになります。

他方で、投資をする、ということはその結果として得られるリターンがどれくらいなのか、という目的の先のゴールの設定があるのも当然です。

ん?自分の私服を肥やすのだからいくら稼いだっていいじゃないかって?そういうゴール設定だってある、というだけの話です。

投資家のスペクトラム


投資家は“負債の長さ × 目的 × 制約”でスペクトラム化される。
この深さを理解しない限り、資産クラスの地図は正しく読めない。

私が投資家、というかアセットオーナーさんの話をするのって読み手の人からすれば書き手の性質上から違和感がたっぷりあると思いますが、まぁ、聞いてください。

例えば、巨大なクジラと称されるとある公的年金さんから始まる、私たちの(いつリタイアするのかわからないものの、そのリタイアした)将来の糧となる年金給付のために運用をする年金、というのを考えてみましょう。年金さんって闇雲にリターンを求めないですよね?将来の給付額という現在の年金加入者の平均余命を前提として(みんなの大好きで何にでも使う魔法のレシピ、大数の法則に基づいて)計算された負債に合わせた支払いが出来るように資産の運用、すなわち投資とその回収、の設計を行うので、あるだけあれば使う浪費家を支えるための青天井のリターンが必要、というわけではないのです。他方で、そういう性質である以上、その設定された目標リターンが達成できないとその翌年以降にリターン(と年金給付金の財源)を補うことが求められるため、よりブレの少ないリターンが必要だ、ということは当然に想定できるのです。

同様に、長期にわたる負債の見えている投資家といえば、生命保険会社のように年金商品や終身保障の保険商品などを販売しているようなところや、銀行のように短期から長期にわたって借り入れているところ(おっと、銀行が借りているといって、はてなマークが出ましたか?私たちが銀行口座に寝かせている余剰資金を定期預金にした瞬間、その期間だけ銀行には長期債務が発生していることになるますし、普通預金についてはいつでも支払いを求められる短期債務であるのです。ええ、私たちは銀行にとっての債権者なのですよ。)、といった具合に、バランスシート(資産と負債)を使ってビジネスをしているからすれば、このような資産と負債の出入りの時間軸に合わせた管理(Asset / Liability Management: ALM)が重要になることから、まずはこの将来の負債以上のリターンは必要になるというのがわかります。(まぁ、銀行さんも生命保険さんも、ALMだけでなく、経営の健全化というキーワードに基づいて、資産の回収確率に基づいたリスク評価を踏まえた資産配分というのも求められているので、投資の判断の要因はそんなに単純ではないし、その裏側で投資への選別が厳しくならざるを得ない、というのが現実なのですが)。

他方で、バランスシートを使ってビジネスをしている金融機関と異なり、モノを作って売ることで収益を得る、サービスを提供して収益を得る、といった実業(ああ、この対義語を「虚業」と称して金融商品の組成販売を生業にする、なんて時代もありましたね。。。私はその意味ではその端くれの生き延びちゃった残党ですが。。。)の人たちからすれば、残念な事実としてメインの事業収益は金融資産への投資のリターンなんて大したことがないくらい高い(ええ、お土産屋を含めた普通の小売業は、一つ一つの売り上げは金融商品から比べれば額としては小さいですが、利益のマージンはファンドの世界で見るようなリターンではありません。ただし、実額としては小さいためそれを日々コツコツと積み上げるのが売るための大事な努力なんですよ。金融やファンドに取り憑かれた人たちにはわからない話ですが。。。)ので、会社全体のポートフォリオとして見た場合には、金融投資部分というのはそんなに大きいものではないので、リターン目線よりも、投資することから得られる情報や事業連携の可能性、といった方に目が向きがち、というのも事実です。とはいえ、「成長がない」と同義の「リターンの出ない」投資先に事業連携の可能性なんてあるはずはないんですけど、なんか社会的意義とかって言葉で逃げ道を作っているのも現実なんですけどね。

そして、資産管理会社や富裕層個人となれば、より個人の想い、言い換えれば「投資を死金にしないように社会貢献に活かしたい」と「自分の次の世代が食うに困らないように恥ずかしげもなく稼いでおきたい」の二つのスペクトラムのどこかに落ちることになります。言い換えると、投資家それぞれの事情を理解して寄り添うしかない、ということです。まぁ、そこに攻めの姿勢のプライベートバンクがついていたりすると、税引き後のリターンを追求するし、その背景には。。。まぁ、推して知るべし、でしょうか。

さらに、rest of us な私たちになれば。。。自分の胸に手を当てて見てください。自分の運用以外のファンドや金融商品に対してどう思っているでしょうか。老後の蓄え?明日の贅沢?時間軸の設定のない議論をしていませんか?

そう考えると、よく「最初はプロ私募でわかってくれる人から資金を募る」けどいつかはクラウン、ならぬ「公募で大きく投資家を募ってたくさんの資金を調達したい」を会社の成長モデルの最後に置いている、夢見る運用会社の卵な人たちの話を聞くにつれ、投資戦略とそのリスクリターンが本当に万民受けする?(他方で、その戦略で1,000億円以上の資産を集めたあとの運用で本当に同じだけのリターン出せるの?がその前に来ますが。。。)を考えていないなぁ、と思って聞いています(し、今後ご相談いただく際にはそう思っていると思っていただいても、まぁ結構です)。

ということで、ここまでで十分に投資家さんにもいろいろな人たちがいる以上、全員にとってベストな解なんて存在しないし、そうなる以上、自分たちの投資戦略というのがどの人たちに刺さるのか、の逆算が必要になるのがなんとなく見えてきます。

その上で、じゃあ、そんな投資家さんたちが実際にポートフォリオの構築をどう考えるのか、ちょっと考えて見ましょう。って、これって実は Podcast Episode 6で話したことでもあるのですが聞いてくれていますか?

資産クラスのスペクトラム


資産クラスは、流動性と情報の非対称性で“深さ”が決まる。
深い領域では、情報の偏在そのものがリターンの源泉になる。

まず最初に考えるならば、個別性を排除して経済の成長性に投資する、という発想にたどり着くことになります。なぜって?お金は置いておいても増えないけど、成長によるインフレでむしろ貨幣価値は下がっている。それならば、そのインフレに相当する、その国の株式市場のベンチマーク指数に連動するETFに投資することによってその国の上場企業に満遍なく投資する(同様に、その国の債券市場の水準を示すベンチマークとなる債券で構成されるポートフォリオを保有するETFなら、その国の成長を債券側で表現したようなものになる)のと同じで、かつ、商品性も単純な(?)株式類似商品なので一番シンプルな税制や投資規制を満たした商品、なので、あとは、その国が無事に成長すればいいだけ、という、色々な意味で直感的な商品だというのが見えてきます。

しかも、もっと考えたくない、となるならば、国の個別性すら排除して世界全体の成長に投資したい、となると、グローバル株式指数に連動したETFで世界全体の成長を取り込みながら、ポートフォリオのコアを作っていく、というのは極めて合理的な発想です。

もし、これを個人レベルで考えるならNISAやiDeCoあたりでオルカンと呼ばれるような投資信託を老後の資産形成を目指して積み立てていく、というのはもっとも妥当で、もし若い世代が投資を学ぶ、と言う時に、まずすべきこと(投資のゴールを設定しつつ、そのために投資すべき最初の一歩)、とも言えるように思えていきます。

その上で、ETFにもいろいろな商品があって、レバレッジをかけたい、セクターにベットしたい、なんならボラティリティが欲しい、などなど、この商品性の中で色々とポートフォリオを構築しながらデイトレすら行う、だってありっちゃ、アリです。

でも、人間は欲深いもので、もっとベータを超えるリターンが欲しい、なんて話になるわけですから、そうなると、その国の平均的なリターンのうち、よりいいものを選べたらいい、ってことで、ファンドマネジャーたちの、機械的な財務分析から地道な企業調査、経営陣との(フレンドリーからそうでないものまでの幅広い形での)対話での企業価値向上、株価推移から見えるトレンド分析、果ては占いに至るまで、様々な投資手法でそういった企業を発掘しては投資したり(逆に株を借りてきては売って値段が下がったら買い戻して株を返す、ということすらして)、ベンチマーク以上のパフォーマンスを作ることを目指すポートフォリオマネジャーがいて、投資家サイドからすると、それをどう選ぶかがものすごく重要になる、なんてことが割とあちこちで話になるし、運用サイドからすればその比較対象の中で自分たちがどう選ばれる(ということは投資資金を受け入れられる)かが大きな関心事にもなったりするわけです。

まぁ、ここまでは上場株式や債券といった流動性の高い資産クラスへの投資の世界の話でした。これだって色々と語り出したら十分止まらない話です(し、だからこそトラディショナルの世界にたくさんの人たちがいて、あーでもない、こーでもない、ってずっと言い続けられるのです)が、じゃあ、未上場企業や不動産、といった流動性の低い資産への投資の世界はどうでしょう。

話を単純化するならば、日本で上場している証券って4000近くあるのですが、法務局のデータによると登記されている企業は大体400万社で大体推移しているそうです。もちろん、その中にはファンドのようなものや個人の資産管理会社のように特定の人たちのための活動をするもの、色々な意味で上場するには好ましくない事業、経営破綻したけど清算するお金すらない、とか、経営者一人がやっていたけど亡くなったり失踪したことで経済活動を停止して放置されたような企業もある一方で、法人化せずに個人事業として運営してそこそこ稼げている、ということは社会に貢献をしているケースもありますから、この国全体の経済活動とそこから発生する付加価値、言い換えるとGDP成長、を完全な意味でカバーすることは不可能なわけです。まぁ、前述の株式市場のベンチマーク指数に連動するETFはその代表的な上場企業でその国の成長を擬似的に測っている、という表現が本当は正しいのかもしれません。

そうなると、未上場企業といった、今まで上場企業の投資でカバーされていなかった成長(ここでよく、間違いがあるのが、未上場企業の成長や収益性が、上場企業のそれよりいい、とは限らないのは未上場企業を実際に経営したり投資したり、横から見ていることで実感する話ですが、割と人の手に届かないものは、魔法の杖から出てくる別次元のもの、と勘違いしたり、そんなまやかしを売り口上にされたりする、ということです。確かに、私自身も、上場企業と未上場企業とでもし同じことをしているならば、上場維持のためのくだらなくて無駄でしかない、四半期ごとの連結作業に始まる、一連の不毛でしかない上場維持のための作業にかかる人件費と時間コストと、それに起因する無茶な売り上げ計上の押し上げや経費削減による純利益の捻り出しへの社内の圧力と軋轢の分だけ、上場企業は不幸で、かつ無駄なコスト分だけ負けている、と思いますが、残念ながらそれが企業価値とか株価、もしくは公正価値評価において大した影響がないので、本当に。。。企業の純利益という事業の苦楽の先にあるキャッシュは事業思想と事業リスクを共有できる限られた株主だけでともにする、が一番幸せと信じていますが、会社は公器である、という尊いお題目というか発想もある(とはいえ、それに対しても、売り上げの対価として提供されるサービスやそのサービス提供のための雇用などの様々な経済効果が社会に貢献すればいいんじゃないの?と思いますけどね。)そうなので、ここから先の社会学的宗教論争になることからここらでやめるとして)を投資の中に取り込むには、未上場企業で投資可能な、ということは第三者からの出資を受け入れてもいい、と考える未上場企業の株式に直接交渉して投資するか、その直接交渉をしてくれた結果投資しているファンドに投資するか、の二択になるわけです。

そうなると、ETFのようなその国全体の未上場企業へ片っ端から投資できるファンドなんてない以上、国ごと買うが如くそういうファンドに片っ端から投資する、なんて無尽蔵なお金とファンドへのアクセスがなければ、個別ファンドへの投資を地味に行うしかないことになります。

──と、ここまで読んで、「じゃあ、上場市場は表のメインストリームで、未上場市場は裏のニッチな別世界なんだな」と、お得意の二元論で見えない壁を作って納得した気になっている人がいたら、ちょっとおめでたすぎます。

投資家が見ている世界は、そんな断絶された表と裏ではありません。彼らが俯瞰しているのは、伝統的資産からオルタナティブまでが地続きでつながった、一枚の広大な「スペクトラム(地図)」なのです。

この地図の構造を決めている軸は、実はたったの2つしかありません。

ひとつは「流動性(いつ買って、いつ売れるか)」

そしてもうひとつは「情報の非対称性(誰が何を知っていて、どれだけ情報が偏在しているか)」

スペクトラム・マッチ、と言う考え方


投資家のスペクトラムと資産クラスのスペクトラムは、
“深さ”でマッチングする。
自分たちの戦略がどの深さを埋めるのかを逆算することが、
ファンド設計の唯一のスタートラインになる。

地図の左上には、いつでも時価で売買できて、誰もが同じ情報にアクセスできる「浅くて、透明な世界」が広がっています。これがETFや上場株式の世界です。ここでは情報が均質であるがゆえに、リターンは市場平均(インデックス)に収れんします。「アクティブ運用がインデックスに勝てない」なんて名言が生まれるのも当然で、要するに、みんなと同じ情報で小賢しく立ち回ったところで、結果はみんなと同じになるという、実に夢のない世界です。だからこそ、巨大なアセットオーナーは頭を悩ませるコストを嫌い、まずはこの退屈な領域をポートフォリオの「コア(土台)」として、ガチガチに固めるわけです。まあ、その結果として「インデックス連動だから安心」と、運用のプロを自称する人たちが本当に頭を使っているかといえば……おっと、これ以上は言うまい。

一方で、私たちが主戦場にしようとしている未上場企業の世界は、地図の右下の果てにある「深くて、ドロドロに濃い世界」です。

ここでは、10年間は資金がロックされて逆立ちしても動かせない(流動性がない)代わりに、泥臭い企業調査や経営陣との血の滲むような対話、あるいは現場への片片の伴走によって、当事者しか知り得ない情報が「これでもか」と偏在しています。

だからこそ、この「深い世界」では、情報の非対称性そのものがリターンの源泉(プレミアム)に化けるのです。

しかも、この「深さ」というやつは、企業の「0→1→10→100」という地道な成長ストーリーと完全にシンクロしています。

創業期のカオスな0から1を支えるVC、そこから事業を拡大させるグロース、そして仕組み化して100へとレバレッジをかけるバイアウト。未上場企業への投資とは、この成長のバトンを繋ぐ「リレー構造」そのものであり、巷でありがたがられる上場なんてものは、その長いリレーの途中に用意された「単なる選択肢のひとつ」に過ぎません。最近じゃ、上場維持のためのくだらない四半期報告や不毛な株主対策に嫌気がさして、わざわざ非上場化する企業が増えていることからも、上場がゴールだなんて言っているのは、実業の苦楽を知らない外野の妄想だとよくわかります。

さあ、ここで「いつかはクラウン、いつかは公募で大きく集金して大企業に!」と夢見る、運用会社の卵たちの顔をもう一度思い浮かべてみましょう。

彼らの多くは、自分たちがこの「連続する地図」のどの深さに立っていて、なぜ自分たちの戦略がオルタナティブとしてプレミアムを生み出せるのか、という構造上のポジショニングをまったく説明できません。「うちのチームは優秀だから」「このセクターが熱いから」という、客観性のカケラもない主観100%のセリフで、投資家が財布を開くと思っているのです。寝言は寝て言え、という話です。

浅草のお土産屋の物売りだって、同じです。

店頭に並ぶ商品には、それぞれの「ステージ」と「役割」があります。喉がカラカラで今すぐ水が飲みたい観光客(=流動性MAXの伝統的資産を求めている投資家)に対して、横から小難し顔で「3年熟成させた、1万円の最高級茶葉です(=流動性の低いオルタナ資産)」と差し出したって、誰が買うかという話です。客はあなたの商品を否定しているのではなく、「いまの喉の渇きと財布の事情」というコンテキスト(文脈)から外れたゴミを押し付けられているから、無視しているだけです。

投資家がオルタナティブに求めているのは、ポートフォリオの主食(ETF)でお腹を満たした後の、味に決定的な変化をつけるための「濃いスパイス」でしかありません。

だったら、これからファンドを作る僕たちが考え抜くべき「オチ」は、極めてシンプルです。

「俺たちの投資戦略は最高だ」という、第三者による評価のない独りよがりの自負を、まずは捨ててしまいましょう。

そうではなく、投資家の巨大なポートフォリオという「棚」を冷徹に、それこそ意地悪く眺め回した上で、

「いま、彼らの棚の『どの深さ』に、どんな味のスパイス(リスク・リターン特性)が欠けているのか」

「自分たちは、どの成長ステージの、どんな情報の非対称性をハックして、その欠けたピースを綺麗に埋めてやれるのか」

を、この一枚の地図の上から逆算して商品(ファンド)を設計すること。

これこそが、「俺って最高だから」という自負に目が眩んだ運用会社が、投資家と同じ目線に立ち、奇跡的に選ばれるためのお土産を作るための、唯一のスタートラインなのだと思っています(し、今後ご相談いただく際には、それくらい冷めた目でこちらが見ていると思っていただいて、まぁ結構です)。

まとめ: ニーズとデマンドをハックする

投資家と商品/資産のそれぞれのスペクトラムを理解する(ハックする)ことが、投資家と資産クラスをマッチさせる唯一の方法の入り口です。

でも、わかったところで投資家サイドの資産と負債の構造を変えることなんて到底不可能です。

と思うと、構造を理解した者だけが、その先の投資家の棚に“必要とされるピース”の形に商品をデザインしてパッケージにまとめることが出来る、のです。






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