パフォーマンス評価に抱かれて -when fund investment analysts cry

パフォーマンス評価は「整理する」こと

物事ってなんでもやりっぱなしはダメで、ちゃんと整理しないといけない。

なんて、コロナ前に難病でこの世を去った母親に言われたけれども、投資の世界では、整理する、は、評価して比較する、ということを意味すると思うし、評価するなら出来るだけ客観的で、かつ評価の比較がしやすい方がいい、ってのは、資金をあちこちの投資先に思いつきだけで突っ込んだ後、結果を知らんぷりして現実を直視したくない人以外なら同感してもらえることだと思っています。

そう考えた時に、このブログが(食べ物の話以外で)一貫して取り扱っている投資ファンドの世界で、そんな比較可能で、客観的な評価とはなんでしょう。というのが、Podcast Episode 7で話したことでした。

まず「パフォーマンス」とは何か

どうしても、投資先の流動性に起因するファンドの属性、いわゆる投資信託やヘッジファンドならばオープンエンド(いつでも投資できて、(ゲートとか市場の流動性などの事情などさえなければ)いつでも投資を終わらせることができる)か、それともプライベート資産投資のようなクローズドエンド(一定期間に出資約束をして、コールに基づいて出資を行なって、セカンダリー市場で持分を売却しない限りは、すべての投資の終わるまで投資から抜けられない)か、でその計算方法の考え方が大きく変わる、というのがメッセージだったわけですが、40分も1人で話していると最後まで聞いてくれた人、というのが、まぁ、少ない。文字起こしした記事なんてあんなに短いのに、2倍速で聞いても20分かかるコンテンツ、今時のショート動画の洪水の世の中には脂っこすぎるネタ、ですよね。

さて、そのパフォーマンス評価ですが、プライベート資産投資においては、絶対的な収益性を評価する、収益率計測としての IRRと、投資倍率としての TVPI/DPI/RVPI (と、上場市場との相対比較を行うPME: Public Market Equivalent)に大別されます。

でも、この話ってこれで終わると思いますか?そう。あの40分はただの入り口に過ぎなかったのです。では、ビートではなく、このパフォーマンス測定の深い沼に抱かれて、泣きながら読み解いていきましょう。

と言いつつ、始める前に、この手の話は上場株から未上場株式、当然バイアウトからグロース、ベンチャー、もちろん(再エネやデータセンターなど含めた)不動産から、ファンドの持分、ポケモンカード、果てはヤフオクやメルカリでのせどりまで含めた、トレーディングという行為に至るまで、適用することが可能ですが、どれもこれも取り込もうとするとかなり話を一般化することになるため、もともと読みづらい文章がさらに読みづらくなる可能性があります。そのため、読んでいてわからなくなっても、筆者までクレームのコメントはご遠慮ください。こっそりメールなどでご相談ください(笑)

Gross と Net の違い

よくある論点からいきましょうか。

Q: もし、運用者のフィーやキャリー(成功報酬)がなかったら、本来の投資ポートフォリオの成長が見えるので運用者の腕や目利きやらを反映したものになるんじゃない?

A: そうですよね。まぁ、フィーを払うからその投資に参加できるって話でもあるわけなので、払わなかったを考える意味が時々あるものの、投資担当者の力量を測るとしたら確かにその「いくらで買っていくらで出た」のかを考える意味があるのは確かです。

そうなると、ポートフォリオの個別銘柄そのものの売り買いだけをひとまとめにして、その周りにある取引手数料とかブローカレッジ、仲介手数料、なんならその銘柄の取得のために作ったビークルの設立と維持・管理費用というものを排除したキャッシュフローをまず作る必要があります。言い換えれば、その辺りの手数料関係も残しておけば、費用控除後のパフォーマンスを作れるのでGross (費用控除前)と Net (費用控除後)のパフォーマンスが作れることになります。

あとは、そのキャッシュフローを使ってIRRを計算するもいいし、投資倍率を計算するも、もし単純なキャッシュフローならば年次騰落率を計算すればいい、ということになります。

でも、これは「個別銘柄」での投資の計算であって、「ファンド」のIRRや投資倍率を計算する、となるとしたらどうしたらいいのでしょうか。

ファンドになると話が変わる

一つは、ポートフォリオなのだから、と、強引に「個別銘柄」の計算を足し上げてしまう。確かにそれはアリですが、もう一つの方法が、ILPAがパフォーマンス測定の方法論として2025年に提示したものになります。そのうちの一つとして、Granular Methodにおいては、キャピタルコールや分配を、投資への充当額、運用報酬、ファンド費用、キャリーなどの目的別に分解して扱います。ファンドのIRRの計算が、Netのファンド・パフォーマンスが投資家とファンドとの間のキャッシュフローを基礎に計算されるのに対して、Grossを考える際には、運用報酬やファンド費用、キャリーをどのように扱うのかを明示して、それらを調整したキャッシュフローから計算する、という考え方です。

あれ?そうすると、前者と後者との間で二つの要素で違いがあることが見えてきます。一つは、個別銘柄の取引にて発生した手数料等、もう一つはファンドの維持管理の費用、はい、アドミの費用から監査報酬、ファンドビークルの維持コストなど、といったところを含めるかどうか、というところです。

結局のところ、ファンド投資、という観点で見ると、ファンドの維持なくば投資が成立しないから、ここの費用は当然所与のものとして考えるべき、という発想が ILPAの考え方としてあることがわかります。

これを踏まえると、運用者/GPのファンドレイズの際の個別の投資事例の際に使われるパフォーマンスと、ファンドのGross IRRの違い、というのが見えてくることになります。

あれ、ここで私の言葉遣いにも曖昧さがあることに気づきます。

「ファンド」のGross IRRって言いましたが、ファンドから享受するリターンとは、投資家全てが等しく同じ、でしょうか?

ユニットトラストや会社型のファンドの場合、クラス・ストラクチャーがあればクラスごとに異なりますが、同じクラスであれば年次/月次騰落率は同じですから、あとはいつ入っていつ出るか、でリターンが変わる、は当たり前のことと受け止めることが可能です。

では、組合型の場合はどうでしょうか?特にLPS/投資事業有限責任組合のような場合、組合員の違いと言えば、ぱっと見で言えばGPかLPかの違いしかないように思えます。実際、その経済的な違いはキャリーの分と運用報酬の部分「だけ」です(と書きつつ、「だけ」、と書いたものの、GPにはGPコミットメント等を別として、GP持分には運用報酬を直接負担させない設計(のは、自分で自分にファンドを通じて間接的に報酬を払う、って税務的に見てもおかしくなる、などの理由があることからですが。。。)が市場でよく見られるものですので、そのような運用報酬の免除「だけ」でも10年後の経済的インパクトは結構大きいですよ。もちろん、GPとLPとでは、権利義務などでも大きく異なるので、これだけで「だけ」というのも軽率ではありますが。。。)。それもあって、GP持分のセカンダリーファンドという戦略すら成立するのです(ま、それ以外の理由もあるのでこの辺りは面白いのですけどね。その辺りはまたおいおい)。

同じファンドでもIRRは違う

でも、ファーストクロージングで入るLPとその後に入るLPとでも当然変わってきます。え?平準化するから投資家間は公平じゃないの?ええ、正しく平準化のメカニズムを組み込んだ組合契約に基づいて、ならば組合における資産や負債に対して(リスク考慮後の)公平性を図ろうとしています。ですが、ここではパフォーマンスの話をしているので、キャッシュフローだけがパフォーマンスの物差しになります。

その観点でファーストとセカンド、ファイナルのLPのキャッシュフローは大きく異なるのは明らかですよね。しかも、その違い、と言えば、ファイナルクロージングまでのキャピタルコールの部分が、ファーストならば投資などに合わせて小刻みに、ファイナルならばファイナルで一括で、と異なります。計算ロジックを踏まえると、IRRは全体の投資期間が短いと向上する傾向にありますので、他の諸条件が同じで投資時点が後ろになるならば、投資期間が短くなることにより、後続クロージングのLPの方がIRRが高めに見えます(もちろん、諸条件が絡むので一概に言えませんが)。

ということは、同じファンド、といっても、ファンドのIRRと、投資家ごとのIRRとが異なる、というのがわかります。しかも、これが全ての回収も終わったファンドですとキャッシュフローだけで計算できるのでいいのですが、ファンドを運営している最中だと、IRRや投資倍率の計算のための一番最後のキャッシュレグはキャッシュではなく、NAVを使うことになります。実はここも微妙なトリックが存在します。

例えば、LP投資家のIRRであればLP投資家の持分のNAVを使うわけですので、公正価値評価なんてものを使っていると、その資産評価に基づく未実現のキャリーを減額したNAVの計算を使いますし、GPのIRRになるとその未実現のキャリーが乗ったNAVを計算に使う、とすると、ファンド全体のIRRは、先ほどの未実現のキャリーはファンドの中でLPからGPに付け替えているだけなので、ファンド全体のNAVには影響しない、のでLPのIRRより高くてGPのIRRより低い、という結果になることが容易に想定できます。

ですが、NAVの計算は会計処理を反映したものですので、上記のような未実現キャリーをLPからGPの持分に付け替える会計処理でなかったら、ここで論じたことと別のことが発生します。ん?そんなことあるのかって?

未実現のキャリーの認識・表示は適用会計基準やファンドの法的形態、契約条項(要はキャリーの性質を契約上どう定めているか)、報告主体や会計方針によって変わってくるので、(未実現とはいえ)費用として計上するケースも現実として存在して、結果として上記の議論が使えないことになり、LPのIRRには変化はないものの、GPのIRRはキャリーが持分に振り替えられないことから押し下げられ、ファンド全体も未実現キャリーを費用としたことでNAVをそもそも押し下げることになりますが、それでもLPとGPの間には止まります。

ここまではNetのファンド持分のIRRや投資倍率の話でしたらの、Grossとなれば運用報酬とキャリーを足し上げることになるので、LP持分とファンドのIRRや投資倍率は自然と上がり、GP持分はもともと運用報酬を負担しないことからキャリー分だけ押し下げられることになります。

LP・GP・Fund は同じものを見ていない

ということで、どうやら私たちはLP/GP/ファンドのGross/Netのパフォーマンス計測という6つの数値の意味と背景を理解して、このパフォーマンスってどれ?という話をしないと行けなさそうだ、ということが見えてきました。しかも、LPのパフォーマンスについてはエントリーポイントが複数あるファンドに至ってはそれも考慮せねばならないし、パフォーマンス向上のためにファイナルで入るには平準化のための追加出資手数料のようなコストを払う必要があるけど、そこは当然にリスクリターンの公平性の観点で当然のこと、と理解する必要もあるのです(だから、予算は投資元本のためしか取っていない、から追加投資手数料は払えない、なんて投資家は不公平だって、LPは強く言ってその代償を求めていいと思うんですよ。何せファンドなんてものは数字が全ての金融なのですから。)。

ファンド・ファイナンスが登場すると

さて、ここらでお腹いっぱいになってきましたよね。でも、残念ですが最近のファンドの世界はこんな程度では終わらないのです。金融工学は組合型の投資の世界でも入り込んできて、パフォーマンスを改善し、資金需要を調整する、という基本的なニーズを満たそうとします。なんのことを言っているかって?みんなが大好きなファンド・ファイナンスの話ですよ。あれってパフォーマンス測定の観点で言えば、本来投資家が出資するべきタイミングや分配を受け取るタイミングを変えることから「パフォーマンスを歪めている」、という評価をする人もいるくらいなのです。

では、このファンド・ファイナンスの影響を排除するにはどうしたらいいか。キャピタルコールとディストリビューションのキャッシュレグにファイナンスのレグを追加することで、あたかも、ファイナンスを受けた時にコールの基づく出資をし、ファイナンスを返済したときに分配を受けた、ようにキャッシュフローを整える、という調整作業が必要になります。

そうすることで、ファイナンスによって「レバレッジのかかった」IRRや投資倍率と、本来の投資や回収のタイミングに基づく「レバレッジのかかっていない」IRRや投資倍率とを比較することで、どれくらいファンド・ファイナンスによって「レバレッジがかかったか」が見えることになります。あとはこのレバレッジ具合と、そのために払った追加の金利との見合いで費用対効果を考える、というのも当然楽しみとしてとっておくことをお勧めします。(もちろん、ファンド・ファイナンスによって、キャピタルコールの頻度が一定のリズムになるので、投資家の実務の観点でもメリットが当然あるので、その側面も評価する必要があるのはいうまでもないのですが、ここはアナリストさんの泣きの話ですからね。。。)

12種類のハーブならぬ

そうなってくると。。。先程の 6種類の計算背景に、レバレッジの有無、という要素を入れることになるので、12種類のハーブ、いや、カレーじゃない、12種類のパフォーマンス評価を一つのファンドで行うことができることが見えてしまいました。うーん、空腹なのにカレーをたっぷり食べた後の満腹感を感じてますよね。今のところは、ILPAの求めているパフォーマンス測定の世界ではこれくらいで許してもらっていますが、実際には、そのキャッシュレグ、recallable return of capitalをgrossで入れてる?netにしている?とかさらに細かく見るべき議論があるので、やればやるだけ止まらない話になります。

パフォーマンス評価の先にある、本当に見るべきものは何か

しかも、ファンドとして分析するには、このパフォーマンスの数値だけでは留まらないのは当然です。これらのキャッシュフローを作り出すファンド運営の考え方とは、とか、このパフォーマンスの計算がそもそもできる体制があるのか、そしてその計算方法に期間を通じての一貫性があるのか?など、これらの数値の背景として見るべきところは満載ですし、これらの背景をちゃんと答えられるか、だって見るべきところになります。

本当にファンドというのはさまざまな見方を考え方が入り混じるので、その背景を理解してからその物を見る、という作業が必要なので数字一つとっても思い込みで見られない、という厄介なところです。

まぁ、そうなってくると、運用会社やGPで内製するには限界があるのも自ずとわかる話ですし、じゃあそれを長期間にわたって確実にデリバリーできるアドミと組んでいるか?というのがファンドの運営体制へのチェックポイントになってくる、というのがGPにとってはサービスプロバイダーの選択のチェックポイントになり、LPにとってはそのようなサービスプロバイダーと仕事をして、IRの体制を整えているか、というチェックポイントになる、ということに繋がってきます。

「整理する」の先にあるもの

さて、冒頭の(亡くなった母の)言葉に戻ります。

物事ってなんでもやりっぱなしはダメで、ちゃんと整理をしないといけない。

その評価には背景(と、自分の理解する前提との違い)もしっかり理解する必要があって、その評価を比較する、となれば、その背景や前提をどこまで揃えら得るか、を事前に考えて情報を取得し、調整する必要も出てくることになります。そうでなければ、数値はただの数値にしかならなくなり、その取得の努力もコストも、そしてその投資も有効活用しきれない、となりかねません。

他方で、残念なことに、まだそのような前提差を横断的に比較・検証できる仕組みは容易に整備されておらず、結果としてそれを実装したツールというのが世の中にそう手軽に手に入るわけでもない、という事実があります。

だからこそ、この問題に向き合う意味はあるのだと思います。

子供の頃にずっと言われた、「お片づけしなさい」は、この投資の世界でも金言なのです。






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