組合型ファンド、ラスボス的事務:equalization

ファンドの世界でequalisation (あ、イギリス英語で書くと、ですよ。日本で最も通用しているアメリカ英語だと equalization、カタカナで書くとイクアライゼーションかイコライゼーションか、まあ、そもそも日本語で組合型ファンドにおけるこの論点をちゃんと語っているのをそもそも聞いたことがないので、以下文中は、以上のどれかで指しますが。。。)というと、このブログの中でならヘッジファンドのパフォーマンスフィーの計算の時に 、財務年度の途中で入った投資家と、年初(というかそれ以前)からずっと入っている投資家とで、年末時点のNAVを見たら、年間でそのファンドに投資したことで享受する資産の増加分が異なるので、その調整を後から入った投資家さんとファンドとの間で行い、年末になったらそれを踏まえてその時点で残っている投資家さんを全部揃えて綺麗に正月を迎える、というのがequalisation よ、という記事を書いています。

Equalisation 要は公平に、平等に

さて、組合型ファンドだって、ファーストクロージングで入った投資家ばかりではなく、セカンドだったりファイナルだったり、その他のクロージングで入る投資家さんだっている訳です。他方で、ファンドというのはファーストで入ってもらってお金をコールして集めたら投資してますよね?ということは、同じように入ったタイミングが異なることに対する調整が必要じゃないの?って気がしませんか?公平に、均等に扱う、だからequal-isation なのですが、実務的には無茶苦茶手間なのです。

かつ、海外の実例を見た上で、日本の投資事業有限責任組合のよくいう経産省雛形に基づく実務を見ていると、どうもなぁ、と思うことがあったり、さらには、これらを踏まえた時に、よく後から入ってきては、大きな顔をする某投資家が要求する話とか、ちょっと頭おかしいんじゃないの?と思うことがあるので、その辺りの、ちょっと日本のファンド業界、そんなことやってるからだめなんちゃうの?という話まで踏み込んで行こうと思います。

そもそも、何それ?美味しいの?

ええ、これがないと、ファンドの投資家の間で不公平が起こるので人によっては投資が美味しくなくなります。という、大事な仕組みなのが、equalization なのですが、どういうことか。ちょっと簡単な例で見てましょう。

Q1:一番単純な例でも

あなたは「Aなんちゃら・セカンダリー・ファンドX LP」のファーストクロージングでUSD10milコミットしました。どこかで聞いたことのあるファンド名だな、と思っても、きっと他人の空似なので黙ってそのファンドに投資するように。その結果、ファーストクロージング後のコールで50%ほどコールが掛かりました。最初っから投資で飛ばしてますね。大丈夫ですかね。まぁ、その結果、USD 5milの出資をして、そのファンドも投資を順調に行っていくようです。

さて、そうしたら、ファーストクロージングから3ヶ月後のセカンドクロージングで某なんちゃら証券の子会社がUSD 10milのコミットをしたそうです。まぁ、ファンドレイジングが安定して行われているようで何よりですね。さ

て、このセカンドクロージングが終わったら、出資調整をしなければいけませんね。というのも、調整をしないと、出資約束額の割合がファーストクロージング直後は100%だったあなたが、セカンドクロージング直後に 10/ (10+10) = 50%になっているのに、この瞬間あなたの出した USD 5 mil(とその一部は投資に化けている状態)で、某子会社は1銭も出資してない、って出資約束額の割合と出資額の割合がミスマッチしている状態にあるからです。さて、どうしたらいいでしょう。

A1: なんの前提も置いていないからこうなるだけよ。

出資額だけ調整すればいい、ならば、某子会社はUSD 5mil x 10/(10+10) = USD 2.5milを出資すればいいので、出してもらいましょうか。でも、そうすると、組合には 5mil + 2.5mil = 7.5milがあることになります。全然バランスしませんよね。どうしましょう。簡単に考えれば、出資してもらった 2.5milを組合があなたに出資金の返還として支払えばいいのです。そうしたら、あなたの出資も 5 – 2.5 = 2.5mil になるので、出資額も出資約束額ベースの割合も出資額の割合も、あなたも某子会社も 2.5/10 = 25%に落ち着きます。

ちょっと待って。色々フェアじゃないことがありませんか?

でも、なんか解せませんよね?何がって?ファーストクロージングで入ったあなたは、何に投資するのか聞かされずに出資約束をした(ファンドの運営者にとってみたら)とてもいい人です。でも、その後投資活動をしていくつかの投資を完了したところで迎えたセカンドクロージングです。某子会社は、その投資の中身を知らずに入った、なんてことは当然ないわけです。ということは、あなたと出資の前提が異なることになります。言い換えると、その投資を見て、出資すべきかどうか判断することが出来たことになります。

しかも、後から入ってきた訳ですから、あなたは、2.5milを3ヶ月分、某子会社に変わって組合に資金提供していたのです。これって、経済効果的にただ乗りされた気がしてきませんか?

ということで、このままだと、情報格差的にもファンディングの観点でも、後から入ったほうがお得、というように見えてきますね。そこで、大抵はこんな条件が組合契約書入ってきます。

追加クロージングの投資家は、ファーストクロージングから追加クロージングまでの期間の運用報酬を払うとともに、ファーストクロージングから追加クロージングまでの期間出資していたと計算される出資額に年率6%で計算される手数料(追加手数料)を支払うことで、組合員として参加が認められる。追加手数料は、追加クロージングの投資家の出資額をファーストクロージングから追加クロージングまで負担していた投資家に支払われる。また、運用報酬相当額に対する追加手数料はGPに支払われる。

これはどういうことか、というと

まず、セカンドクロージングで入った某子会社は、それまでに行われた投資からの利益を享受するには、GPに対してファーストクロージングから参加するまでの期間に遡って運用報酬を支払うことで、GPに対してその投資を見つけて実行したことに対する対価を払いましょう、という意味です。

もう一つとしては、出資額の負担についてです。ファーストクロージングからセカンドクロージングまでの3ヶ月の間、2.5milを出資すべきところを負担してもらっていたので、2.5mil x 6% x 1/4 = USD 37,500を追加手数料として、某子会社が一旦組合に支払う、というものです。

とはいえ、これってファンディングコストの議論でしかないので、実は、組合がもらっていい手数料ではなく、ファンディングをしていたあなたが受け取るべき手数料、なのです。あ、ここ、後で重要になるのでメモってくださいね。また、今は便宜上、簡単な計算をするために2.5milってしてましたが、厳密に考えると、あなたが出資していた5milのうち、運用報酬としてこのファーストクロージングからセカンドクロージングの期間に対してGPに支払った額(便宜上、年率2%で消費税なし、としますね。面倒なので)は 10mil x 2% x 1/4 = USD 50,000 なので、あなたの出資したUSD 5milのうち、USD 4.95 milが投資資金、残りの 0.05milが運用報酬、と分けられるので、厳密に計算すると、セカンドクロージングで入るためには

  • 投資資金のファンディング対象は USD 4.95 mil /2 = 2.475 mil
    • これに対する手数料は 2.475 x 6% x 1/4 = USD 37,125
  • 運用報酬は USD 50,000
    • これに対する手数料は 50,000 x 6% x 1/4 = USD 750

ということで、この合計の。。。USD 2,562,875 が某子会社に対してコールされる、ことになります。そのうち、上二つはあなたに、下二つはGPにそれぞれ支払われて、引き続き投資が進んでいく、のです。

もし、これがサードクロージングになれば、セカンドクロージングまでの投資家はファーストクロージングから負担している形になっているので同じ論理でファーストクロージングからサードクロージングまでの期間での手数料計算等をすればいい、という感じです。

ん?なんだか自分達が普段取り扱っていることと微妙に違うんですけど。。。

多分、投資事業有限責任組合を運営している(おそらく日本国内のGPと、そのアドミとかコントローラーというお仕事の方のほとんどの)人(とそれに投資している、これまたおそらくほとんどの国内の投資家の経理処理をして細かい数値を見ている、私と同じ匂いのする人)からすると、いくつか違和感のある結論になっています。多分、こんなところじゃないでしょうか。

  • 運用報酬を遡って取る、さらに(もしくは、運用報酬は取るけど)そこに遅延利息みたいなのを取る、というのはやってないかも。
  • 追加手数料の計算根拠は、コミットメントの10%と組合契約に書いてあったり、そこまでの出資比率に合わせるようにしているのでこんな計算しない。
  • 追加手数料は取るけど、組合の収益にしているので、既存投資家に払うなんてしていない。
  • 大口投資家から手数料はタダにしろって言われるから取れない

幸か不幸か、大阪生まれ、(足立区で物心ついて、)ファンドの世界ではジャージー島とケイマン諸島育ち、友達といえば物心つかない頃に奈良公園で遊んでくれた鹿、の私からすると、日本のルールがどうこう、という以前に、これが世界中(ex-Japan、なのは常ですが)で一般的に見られるequalizationで筋の通ったもの、というのがひよこのようにインプリンティングされてますので、こっちから見た日本っておかしくね?的な議論のベースにあります。ただ、問題の整理をする中で、それはいいんじゃない?それって本当に投資家間で公平なの?っていうところだけは指摘していきますし、それを罷り通らせているのって、官民ともにどうなのよ?って思うんですよ。

運用報酬の免除?GPマターっしょ

さて、運用報酬のところは、後から入る投資家とお金が喉から手が出るほど欲しいGPとの間の取り決めですので、それを免除するとかはGP次第でいいんじゃないっすか?程度です。ええ、そこはGPの自己判断ですから。

追加手数料計算、確かに契約書にあるけど、それが公平かは別問題

でも、追加手数料の計算って組合契約に書いてあるから、とか、同じ比率にするから、とか、先の極めて単純なケースでの計算を見ても分かる通り、同じ比率にしたところで、運用報酬と投資資金に対するファイナンシングとで別に考えると、そんな単純な議論で丸まらないんじゃない?言い換えると、誰かがどこかで泣くのを組合契約だからって暴力で終わらせてません?まぁ、同意したくなければ投資しないか、投資するのだから契約書をフェアな形に修正しろよって言えばいいだけなので、誰も言わなかったし、疑問にすら思わなかった、程度、とすれば、まだいいのかも。。。本当にいいのか?頭使ってるか?

不都合な真実:追加出資手数料の税務リスク

それ以上に、追加手数料の扱いが雑すぎ。組合の収益にしてしまうと何が起きるかって、その収益を分配を払う時点の組合員に支払うって意味ですよね?しかも、その時って、手数料を払った投資家、いませんでしたっけ?これって何が起きるかというと、手数料を払った投資家にも、損益分配によって、組合の収益としての手数料を分配している、という意味です。ちょっとわかりづらいから、こう言い換えます。

自分で組合に払った費用の一部が自分の組合持分の収益として取り込まれる

のです。多分少額だから、ということで何も考えられていないと思いますが、似た問題として、GPが運用報酬を費用計上するか?というのがあります。GPも組合員ですからその持分に対して運用報酬を費用として計上してもいいかもしれません。ですが、GPが損益取り込みをした結果、自分の受け取る報酬の一部は自分の持分に対するものですから、自分で自分に報酬を支払っていることになるのです。

実際、これってGPの税務処理で問題になっているそうで(そりゃそうですよ。どこの世界でも、自分宛の領収書を課税費用として扱えることはないのです。)、(1)GP持分に費用計上しない(要は免除する)、か(2) GP持分への費用計上分は持分の出資額返金扱いにする、とすることで、要は課税費用としては否認されています。ということは、この追加出資手数料を自分で払ったものを一部とはいえ自分で受け取る、というのは同じ論点で考えられるべきものです。と言って、これが問題になった、って聞かないので、言葉を選ばずにいえば、税務署も、税理士も、投資家も、類推論が苦手なのかしら。いずれにせよ、税務リスクがある上に、投資リスクの対価を支払うべき相手に払えていない、って不公平性がある処理をしている、としか映らないのです。

大口投資家の手数料免除?意味がわからん。

そこにきて、大口投資家は追加出資手数料が免除、ってクロージングまでの資本リスクの対価を一番支払うべきところが免除、ってその合理性の議論に欠けている、としかいえません。もちろん、それを契約書に書かれているから同意しているだろ、という話にまたされそうですが、じゃあ、そのメリットを享受するのって誰よ?投資資金の欲しいGPとブラインドでないポートフォリオを見て入る大口投資家で、組合を成立させるべく少額とはいえリスクをより取った初期の投資家のリスクを尊重していない、ですよね?

社内のルールがそうだから、という言い訳なのか、出資する資金の性質がそうだから、なのか、どこの誰だか今まで直接お目にかかったことがないので、どういう論理で罷り通しているのか知りませんが、もし、手数料を免除するならば同額を資金のメリットを受けるGPが支払うくらいのことをすべきなのでは?少なくともそんな契約書(の英訳)を見て、今一番きて欲しい、とあちこちで声高に叫ばれている海外の投資家が来るとは到底思えません。要は、資本コストのリスクを初期の投資家が後から参加する投資家に変わって負担しているのだから、その資本コスト分は最低でも負担すべき、かつ、もし、ポートフォリオが資本コストに見合わないリターンだと考えたなら出資をしなければいい、それだけの話です。

まとめ:ただ、公平に取り扱いたいだけなのですよ

ということで、equalizationって、ああ、それのことね、と思った人もいたと思う一方で、ちょっと日本の常識は国際市場ではちょっと非常識で不公平、っていう刺激的な話にしました。でも、上記を読んでどう思いました?もし投資家の立場なら、いくら多数決決定だから大口に有利になる、とはいえ、自分が金銭的にもある程度の公平性を与えられると思いたいですよね。

セカンダリー戦略をやっていると、当然投資家のポジションにつくこともありますが、大抵はこの手の手数料の話なんてとっくに終わって、下手したら運用報酬すら停止しているケースもあるので、こんなところをGPの方達とガリガリやることはほぼ皆無である一方で、それを知るからこそ、自分の運営するファンドは、誰がなんと言おうとも、フェアであるべき、と考えた作り込みをしています。

そんな思い、なかなか伝えられないんですよねぇ。ということで、今回書いてみました。もし国内で組合型ファンドを作る、という方がこれを読んだり、投資家の立場で入るぞ、というときには、ここの不公正が是正されるように契約書の修正を求めてもらえたら、書いた意味があるでしょう。また、これを読んで、うざったいことを言う奴が出てきたな、と思われたら、もうありがとうございます。この国の取引の公平化をフラットに考えて、実行していただけるのを楽しみに待っています。


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error: Content is protected !! こんな記事、コピペして使うなんて。。。恥ずかしいです