最近、色々な人がケイマン諸島に作ったけど、高いよね、面倒だよね、というのを聞くけど、そもそも、それ、本当にケイマンで作る必要があった?ってケースが多いように思って聞いています。ケイマン諸島は確かにファンドを作る意味では、世界中の「みんな」がするけど、今は21世紀、個性の時代なのだから、「みんな」と同じことをする必要があるの?
ということで、最初に大事なことを
実際、私のような日本に数少ない本物の、ファンドのストラクチャリングのプロはこう考えます。もう、私のビジネスのノウハウを大公開ですが、まぁ、国内のいろいろな事情を踏まえると、本当にこれで再現できる人っていないから公開するのです。
ファンドを作るときのレシピ
- 投資対象と投資家のいる場所
- それぞれの国や地域の法律とその書かれている言語、税金、そして
- それらをつなぐ租税条約などの条約
すごく簡単でシンプルでしょ?で、このレシピをどう使うか、というと。。。
- 投資家はどこにいて、投資先はどこにある?
- 投資先の国の外国人に対する投資規制や税制を考える
- 投資家のいる国の海外投資に対する規制や税務を考える
- 二国間の租税条約や、その他の投資を阻害/支援する可能性のある条約を考える
- 検討結果として、第三国を入れることでコスト対比で税務が「劇的」に改善するか考える
あれ?ケイマンどこに行ったの?と思ったでしょ?そうなんです。実はセカンドオプションに過ぎないのです。もし、ここから先を読む時間がもう時間がない、という方は年間でそこそこコンサルフィーを頂けるノウハウを手に入れた、しめしめ、とここで離脱していただいても結構ですが、まだ時間があるぜ、という方は、なぜこのフローで考えるべきなのか、ちょっと下記のあれこれまとめたので見ていきましょう。
グローバルプレイヤーたちのファンド業界の実情は。。。
色々と国内の色々な人とファンドの組成の話をしてきましたが、多分、この手のことを一切考えずにいきなり、ファンドだからケイマンでしょ、というジャンプをしているように感じます。でも、どうして気づいたら何故ケイマンなのか?まぁ、教科書的な理由で言えば
- 世界中からお金を集めて、ターゲットとなる国や地域への投資をするため、お金を一箇所に集めるハブにしている。
- 租税条約がほぼ存在しない税務的に中立的な国なので、租税条約に基づく減免措置は存在しないが、投資家にとって透過的な効果があるので税務は投資家や投資家の国から資金を流すフィーダーで対応すれば良い
- ファンド組成のためのビークルの選択肢とそれを支える法制度が整った上、実務を投資家や投資対象に近い国や地域で行うことができるため、事務の効率化が図れる
- 大事なことだけど、ケイマン法の弁護士さんとアドミのマーケターさんたちはマーケティングが非常にお上手かつ、日々情報発信しているので、ついグローバルスタンダードでやることが格好良く見せてくれて、自尊心をくすぐられてしまう。ある意味、週末にふらっと入ったセレクトショップの店員さんが初見なのにバシッとしたおしゃれな洋服の組み合わせを提案するくらい、その場だけのお薦めがお上手。
日本というか、あなたを取り巻く環境に必要なものは?
でも、落ち着いて上を読み返してください。これって、投資家が世界中に散らばっていて、そこそこサイズが集まるからコストに余裕のある投資の時に初めてその威力をメリットとして発揮しませんか?これ、今あなたが考えている、日本の投資家とだけ投資プランを考えて、とある国にターゲットが既に決まっていて投資するスキームにとっては、よくよく見ると脇とかお尻の辺りとか「ダボダボ」なのに、お腹周りが「キツキツ」じゃないですか、セレクトショップの店員さん?そうなると「既製品」ではなくてセミオーダーでもいいから「体にあった」ものが必要になってきます。
ダボダボ・キツキツだと大変な理由
事実、ケイマンのような第三国をホップして投資するスキームを作る場合、
- 日本だけでなく世界中で募集するモードで作ることになってしまうので、世界でも特に引っかかるとやばい、米国内での募集規制に引っかからないようにするために、米国1940年投資会社法(ICA)に定義される募集免除規定の範囲(いわゆる3(c)(1)とか3(c)(7)会社と呼ばれるあれ、です)にあるように仕組む必要があり、結果、投資家の制限がICAに定義されるQualified Purchaserとか 1933年証券法のRegulation Dに定義されるAccredited Investorに制限される。もちろん、これらは日本の適格機関投資家の定義と微妙に異なるので、また別にそこへの募集制限の規定を入れないといけないのでややこしくなる。さらに言えば、間違って米国投資家が入るなら、その前にはファンドの免除適用の届出を、投資家の資金がそこそこ集まるとSECに免除海外運用者などとしての登録が必要になるので、あなたのファンドやあなたのチームの情報がSECのウェブサイト(とGoogle検索結果)に乗り、必要に応じて年一回の届出義務も発生する。
- もちろん、それが嫌で米国投資家以外の投資家に限定する必要がある、というか、それが逃げ道、と思われがちだけど、それは単にSEC対応にすぎない。
- 仮に、米国投資家お断りしても「しなくても」、世界中から見て、第三国なケイマン諸島ということは、投資家はすべてケイマン諸島などの第三国から見ると非居住者口座を作ることになり、FATCA/CRSの格好の餌食になる。どういうことか、というと、FATCAのためにGIIN (Global Intermediary Identification Number)を取得しては毎年米国内国歳入庁(IRS)に個別投資家の損益分配情報を提供する必要があり、CRSに対しても同じ作業をして、AEOI (Automatic Exchange Of Information)という名前は超ダサいけど、世界中の非居住者口座の情報を居住国の税務当局に提供する、というとんでもないポータルに所得関連の情報を提供することになる。もちろん、FATCAのためにも投資家全てから W8フォームと呼ばれる非居住者証明書をもらっておく必要があり、それがないとその所在不明(というより、米国納税者が米国外居住者のふりをしていると認識してもいいよう)な投資家の部分については、米国資産の売却代わり金の3割(利益分ではなく、売却で得た資金の、である)をIRSのために源泉徴収して納付する必要が出てきます。ケイマン諸島などの第三国のファンドでは投資先で何をどう売却するのかわからないので、受け取ったW8フォーム投資先にを提示することでかかる源泉徴収業務をしてもらう必要がある、ということは事実上、税務情報という名前の投資家情報を全部開示する必要があります。
- ついでに米国投資家なんて厄介な投資家が間違えて入ってしまうと、その投資家のためにForm K1 という、彼だか彼女だかそれだかの米国における確定申告の支援のための書類を提供する必要が出てきます。それは単に書類を作って(ちなみに、これを作ること一つとっても、結構大変です)交付すればいい、というわけでなく、IRSにも届け出る必要があり、そのためにはIRSからファンドに対して Employer Identification Numberというのを事前に取得する必要があるのと、米国内にファンドの代わりに受け答えしてもらうための米国内の代理人を依頼して届け出る必要が出てきます。まぁ、日本人の大好きなユニットトラストはPFICと呼ばれる、米国人が間違えて入ることはないものの、limited partnershipには税務上透過性があるから、とフラッと入ってくる可能性があるので、気づいたら意味もわからず米国税務をさせられる危険性があることに注意なのです。
- 当然、投資先でも、投資家の国でも、投資規制に対する対応が求められるものの、ビークルがある以上、ケイマン諸島をはじめとする第三国でだって手間で面倒でコストのかかる投資規制に対する対応(ケイマン諸島でいえば、Private Fund ActやMutual Fund Actに対する年次報告、他の国にもたいてい同じようなファンド規制とその年次報告義務は普通にあります)と、ビークル維持管理のための年次対応(年次の登録手数料は当然だが、GP会社の年2回の取締役会の開催だってちゃんとやる必要はあるし、その議事録もregistered officeにナイナイする必要だってある。要は、いくら器、だとしても、ちゃんと会社としての維持)だって必要です。
- で、これらの作業をしてもらうための、ファンドアドミや監査、registered officeに、ファンドのディレクター(必要に応じて米国税務に関するコストも)AML関係のフレームワークのための手当といった、ファンドを運営するのに不可欠なあなたの大事なパートナーたち(業者なんて安っぽく呼んだらぶっとばしますよ!)の手間に合わせた報酬だって払う必要があります。しかも、日本と違って世界中あちこちでは普通にインフレがあるから、えー、高いーなんて、ちっちゃいことを言わずにそこもちゃんと考えてあげないとお付き合いしてもらえない、ということも理解しましょう。
- あ、そうそう、AML/KYCについては、ケイマン諸島にも厳格なルールとともに、ファンドアドミのいる国のルールが適用されます。もしファンドアドミが、投資先の国にも投資家の国にもいない場合、4カ国のルールが適用になるので、投資家さんから「どういうこと?」と聞かれるリスクも上がります。
って、ことがまぁ、待っているわけです。あ、もちろん、こういうところを考えるのに、ケイマン諸島法の弁護士と同時に投資家のいる国の弁護士との連携が必要になり、気づいたら米国の弁護士と税理士も巻き込まねばならないし、当然、投資先の国の法律を見てもらうための弁護士さんと税理士さんだって同じくらい必要です。
もちろん、これらはケイマンに限った話ではなく(ええ、アンチ・ケイマンをする記事ではないですよ、これは)、同じように日本に「ファンドをうちの国/うちの事務所と作りましょうよ」とマーケティングにくる、アイルランド、ルクセンブルクにシンガポール、もちろん私の第二の祖国ジャージー島だって、投資先と投資家とを繋ぐ第三国の立場になるために一生懸命メリットを説明しますが、上に挙げた項目のうち、米国対応のところはどこの国で作っても追いかけてくる問題ですし、ファンドの器としてその国の金融規制への対応と設立根拠法に基づく対応は必要になりますし、これらの国ですと、ファンドの維持、運営のためのパートナーたちがその国にいることを求められるので、さらに実務上の制限(例えば、投資先がアメリカで設立国がヨーロッパ、投資家が日本だと、アメリカのT+0の夕方のマーケットクローズを受けた上場株式ファンドの評価がヨーロッパのT+1に行われることになるので、T+0のファンドのNAVが東京に届くのがT+2になる、のです。これって公募の投資信託だと致命傷、というか取り得ない選択肢、だということになりますよね?)があれこれ出てくるのです(ね?ケイマン以外のデメリットはすぐあげられるんですよw)。
さて、事務担当がいるから全部それに任せた、なんて偉そうに言って自分は投資だけやって仕事している、と言い張れるパートナー様にとってはあまり痛くも痒くもない話(ええ、あれこれ知ってます(ぶーーーー))ですが、(超安月給で)任された方はたまったものではない以上に、投資家さんにとっても、知らないうちにこんなにあれこれ自分にとっては不要かもしれないことにコストを払わされている、ということなので、どうなんでしょうね。
案外悪くないんじゃない、日本のファンド
としたら。。。このコストが見合うだけのことをしているのか、まず考えた方が良くないですか?事実、当たり前すぎてあまり気づかれてない日本のファンドのメリットとしてこんなことが挙げることができます。
- 日本で投資家を募集するなら日本語一択なので、海外ファンドの英語(ルクセンブルクやガーンジーだとフランス語)の契約書の翻訳は余計だから、日本の法律でやれば募集準備も早くない?もちろん、英語しか読めない投資家だと無理だけどね。
- 日本の投資規制って金融商品取引法関連なので、ファンド運営初心者ならばいわゆる63条特例業務の範囲でやっていれば十分。もちろんFSAに対する年次報告はあるが、このような初心者(というか、国内で一任運用の登録をしなければ)ケイマンファンドを作っても63条特例を出すのが一般的なので、ケイマン当局への年次報告とダブルになるのとどっちがいい?
- 日本の投資家だけなら、国内のファンドにとって非居住者口座は存在しないので、FATCA/CRS対応は限定的(国内で銀行口座を開けるときに聞かれますし、海外の投資先にとっては非居住者口座になるのでその説明・対応は不可欠。)少なくともe-tax経由で投資家の情報をアップロードするなんてことはしなくて良いのは死ぬほど楽。もちろん、SECやICAなどのことも気にしなくていい。
- 言いたくないけど、日本の会社法とか投資事業有限責任組合法に定める年次義務とその罰則規定はケイマンの exempted company actやexempted limited partnership act の求めるものほど厳しくないしコストとしてはほぼ0。商法や民法の一部で作る任意組合や匿名組合に至ってはそもそも設立に関する登記から何からもはやそんなものは存在しないのでその意味では維持費無料。誰だ、ケイマンがざるって言ったのは。日本の方がよほどざるだ。ただし、その代わりに税務申告/確定申告対応(組合ですら、年次で支払い調書を税務署に出す義務がありますよね?)が年次であるのでそこは頑張ろう。
- 案外、日本からの海外投資では投資先の国との間でお得な減免措置のある租税条約があちこちの国と結ばれてあるので、それを使うと実は源泉徴収された税金を後から1年以上かけて取り返すより早くて税理士のコストもかけなくて済むのでお手軽、ってことはケイマンファンド信奉者の多い日本だとあまり知られてない事実。さらに言えば、ケイマンのユニットトラストなんて(!)使うと、減免措置を使って取り返すことすら出来ないので、投資効率が実は落ちるケースすら出てくる。
もちろん、日本も地上の楽園ではなく
まぁ、ちょっと持ち上げたら、落とすのが基本なのですが、日本でファンドとして使われている器を規定している法律はそういう目的で作っている訳ではあまりないので、他のファンド設立国のようなファンドで国を支えていきます、といったファンドを誘致するための尖った特色があまりあるわけでなく、むしろ色々障害があるのは当然なのです。結構みんなそれでブーブー言いますが、そんな人たちがよくいう「法律の趣旨」とか「大義名分」というのは自分のファンド設立や運営だけを楽にするため、ではなく、ある時点における、ある政策に基づいたものなのだから、時として時代遅れなのだから文句は言ってはいけない。とはいえ、商業的な事情なども踏まえて、日本のファンドとそれを取り巻く環境の問題点をあえて言葉を選ばずに思いつく問題点を説明するならば
- 投資信託を作るなら、投信会社と受託会社に商業的価値と納得してもらう必要がある。よく妄想すぎる勘違いをする人がいるけど、俺の投資戦略、最高だから公募の投資信託にしたい、と意味の分からないくらい軽々しく口にする人が(世界中のあちこちで、マジで本当に意味のわからないくらい)多いけど、投資資産の流動性の問題もさる事ながら、取り扱ってもらう証券会社を見つけるべく、そこが投信会社が納得できるくらいのサイズで本当に売ることにコミットしてくれて、かつそこがどこまで自分の史上最高の投資アイデアとやらに入れ込んで心中してくれるか、そういうニーズが本当に世の中にあるのか、現実を見てきてほしいところです。売るのは証券会社仕事で勝手に売ってきてくれる、だって俺の戦略は最高だから、なんて正直幻想です。おっと、口が滑った(笑)
- 投資法人を作るにも、その手続きや設定、維持するための人材等を集めるのが超面倒で時間がかかるし、やれることに制限が多い。
- 投資事業有限責任組合は、緩和されたと言われるものの海外株式への投資をメインでやるには事前許可とその後のモニタリングの観点で手間しかない。普通に国内の未上場株式の投資に使うのが身の丈にあってる。
- 任意組合は、そんな投資制限がないのでアメリカから、ヨーロッパ、果てはアフリカまでの投資に使えるけれども、投資家全員が対外的には無限責任を負うので、いくら組合契約の中で業務執行組合員以外の有限責任性を決めたところで、外部の利害関係者から投資家に対して債務返済等の請求があったら一義的にはその投資家が対応して、それを有限責任性の取り決めに基づいて他の投資家に請求して回収する、という実務上のリスクがどうしたって残る
- 匿名組合なんて、言ってしまえば営業者にお金渡して投資のリターンを返してもらう、というだけの昔の商売人の商慣習的な契約だから、資産の分別管理とか、他の事業の失敗で資産に手をつけないか、本当に約束通りに投資のリターンを払ってくれるの?など、事実上、営業者の事業継続性と生存確率などなど、ぶっちゃけ信用だけが命
- 全般に言えるが、残念ながら、この辺りを理解して維持することを支援することの出来る、国内のファンドアドミが少なすぎるし、リソースも全然不足している(なので #カリスマファンドアドミ が絶賛人材募集中ですよ!)。もちろん、こんな形でスキームの違いとメリット・デメリットを丁寧に分析して説明する人なんて今までこの記事を書くまで見たことがありません。(いいんですよ、これを使って国内スキームにお客さんを誘導して、稼いでもらってその分私にフィーを払ってくれて。いやマジで、この記事だけ収益連動型著作権請求権が発生する方法ないかなぁ。。。それくらい我ながらいい題材を書いていると思っているんだけどね。)内製化しているところもそこそこあるけど、結果として、それぞれの体験に基づく事務の自分ルールがサイロ化して日本中で車輪の再発明をしているので、やれる人が少ないのに無駄が絶賛発生中。
と確かに帯に短し襷に長し、の部分が大きいけれども、投資とは投資してリターンをいかにたくさん返してなんぼ、ということを考えるならば、投資家と投資先の前提をきっちり固めた上で、その前提にぶれず(途中で、他の国からの投資も「あり得る」から幅広に考えたいんだよね、とか寝言は寝てからいうべき。)費用対効果に徹底し、ファンド運用者の思い込みとプライドと、無駄な可能性への期待など諸々排除するべき、ではないかなー、と。
まとめ:もちろん、あなたの話はあなた特有の事情があるのだから
もちろん、ここまでの話は(これでもまだ)一般論。これだけでも十分あれこれ語れるくらい、ストラクチャリングは個別性が極めて高いスキルと知識の集合体ですから、見ようみまねで適当にやらずに、ちゃんとしたスペシャリストと検討しながら適切なパートナーたち(もう一度大事なことなので言いますが、業者とかいう人は許しませんからね!)とチームを作り上げて、投資スキームを組み立てて投資し、リターンを回収して投資家にお金をお返しして、スキームをきれいに畳む、までやって初めてプロの仕事です。ついぞ何かの先生に話して始める、というのもありですが、その何かの先生だって得手不得手があるのでスキルと協業できる他業種の繋がりが偏っている可能性があります。(士業の先生たちを敵に回す気は全くないですが。。。)
ということで、ファンドのエコシステムの色々なパートナーたちと常に連携をとって中立的にしごとをしている私たちと一から作ってみませんか?
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