オランダのプロ投資家って? – 世界のプロ投資家の世界から

いつもながら、と思いつつも、このプロ投資家って、気づいたらシリーズ化してしまい、個人的には調べて、知って、比較して楽しんでいるのですが、なかなかその楽しみというのが理解されないようです。

まぁ、それを知ってどうするの?何かのお得なの?と思うのは、当然ですよね。大抵のファンドな人からすれば、プロ投資家って人にあって出資して貰えばいいのであって、その法的根拠とか、その人に募集する際の制限なんてものはあまり気にしなくてもそれこそ「プロなんだからなんとかするでしょ」くらいに思っていても十分、プロのファンドの人の顔をしていられますからねぇ。

とはいえ、そもそも、これを調べることになった大きな理由というのが、某Ariake Secondary Fund なんて無名のケイマン諸島籍のファンドでセカンダリー投資をしていて私自身がファンドのいわゆるdirectorでUS-SECとか金融庁に諸般の登録で名前を出しつつ、コントローラーとして全ての取引の契約書のレビューと署名をしているわけですが、そうなると、セカンダリーで買ってこようとするファンドの持分の発行体であるファンドのGPにとっては新しく投資家になる新参者な訳ですので、それぞれが、その設立国や運用者のライセンス国、ファンドアドミの所在地などにおけるAML/KYTCは当然のこと、プロ投資家であることの表明保証を求めてくるのです。

で、過去の色々なプロ投資家の定義を見てわかる通り、どこかの国のプロ投資家であれば、他の国のプロ投資家として認めてくれる、なんて都合のいい話なんでどこにもなかったのですから、常にAML/KYTCだけでなく、求めてくる表明保証についてはしっかりと理解して、表明保証出来るかどうか検討する必要があるのです。

で、まぁ、ざっくりというと、それをやっていると、なんで他の(特に日本の)投資家っていうのはこんな意味のない表明保証を求められているからっていう理由だけでやっているの?という、馬鹿げたことを平気で受け入れてやっているなんていうことにも気付くし、ど直球のロジックとやんわりとしたアプローチでそんな馬鹿げた要求をまだ対応可能なものに変更させるネゴ能力もついてきた一方で、それすらしていないことが透けて見えてきた業界の人たちの顔を思い浮かべては。。。いや、これ以上言うと石を投げられるからやめておこう。

ということで、そんなことの繰り返しを気づけばもう数十ファンドでやっているため、こんなにストックが出来てしまった、という訳なのです。が、今回はなぜかオランダ。残念ながらベネルクス三国で行ったことがあるのはルクセンブルクだけでオランダには行ったことがない。とはいえ、数年前に、6ヶ月かけて一生懸命就労ビザを取って3ヶ月のインターンで受け入れた子の出身地がオランダですので、弟子のいる国、と思えば縁がある、とも言えますので、私的にはその意味では不思議はない、ということでいつものように、これ以上長い話に付き合えない方向けのセットはこちらからどうぞ。

https://www.slideshare.net/ShinobuMIYATA/ss-248465535

でも、そもそもオランダってEUの一員だから

EUにはファンド募集に関する二つの有名な言葉があります。

UCITS

Undertakings of Collective Investment for Transferrable Securities (譲渡性証券を対象とした集団投資事業):この初版は1985年なのでEUの発足前からある、ヨーロッパ域内での個人投資家向け投資信託の募集に関する国際ルールでして、ざっくり言えば、UCITSに準拠した投資信託(といっても、ヨーロッパなので会社型契約型もどちらもありますが)をEUのどの国で作ったとしても、EU域内の他の国に対しても(当然そのローカルでの募集に関する法令を満たす必要はありますが)改めてファンドの登録をせずとも募集が出来る、と言う、いわゆるファンドパスポートの走り、です。不思議なことに、UCITSであれば、ヨーロッパ域外のシンガポールや香港、オーストラリアでも現地の登録のハードルがやんわり下がっていたり、ヨーロッパ域外の機関投資家がUCITSならば投資しよう、と言うくらいで、どうもEU外の投資家が30%だとか70%だとか、誠しやかな数字がルクセンブルクとアイルランドといったUCITSの設立二大巨頭国のファンド業界団体のプレゼンにいつも踊っていて、UCITS = 投資の安心ブランド、と言う認知も進んでいるようです(でも、投資するときには戦略とか投資資産とか運用会社とか、他にも見るべきところはたくさんありますからねっ!)

AIFMD

Alternative Investment Fund Manager Directive (代替投資運用者指令): 2008年の世界金融恐慌の頃から議論されていた世界的な金融市場の安定化の一端として、EU内で規制の少なかった非UCITSファンドに対する募集や運営に対する規制導入を目指して作られた指令で、2011年にEUレベルで施行、2014年にEUの各国で適用開始されました。前述のように、UCITSが個人投資家向け公募ファンドの規制であったところ、その他の法令の網がほぼない状態だったところに網をかけた指令ですので、名前自体は オルタナ投資と、ヘッジファンドやバイアウト、ベンチャーファンドあたりを狙っているように見えますが、非UCITSであれば機関投資家限定の私募の伝統的資産と伝統的運用方法の組み合わせであっても適用されます。また、UCITSがファンド自体の規制であるのに対して、AIFMDの直接の対象はAIFM、すなわち運用者であって、その規制範囲もEU域内でのマーケティング(募集ではないですよ)、運用手法、報告・開示、そして報酬体系を含んだ認可条件にまで及ぶ一方で、UCITSのような一国で適用できれば他のEU域内でも使えるパスポート機能の恩恵を与えています。

ということで、この二つのおかげで、EU域内におけるファンドの二つの募集方法、公募か私募か、のどちらを選ぶかに対してその他の免除/特例措置、というのができなくなったのです。厳しいですよねぇ。でも、これをどこか(例えば、マルタやキプロスのようなファンドで立国しようとしている小国で)取っちゃえば、パスポートを使ってルクセンブルクやアイルランドといった資金の集まりそうな国やフランスやドイツのような投資意欲と体力のありそうな国での募集が出来るので、一定の法令対応をすると割り切れればヨーロッパへの進出の糸口はある、とも考えることができそうです。

とはいえ、実際にお金のあるところ、というと、EUから離れたイギリスか、伝統的な富裕層の国、スイス、ですから、EUであるべきか、という問題そのものがありそうにも思えてきますが。。。

その前提で、オランダそのものの規制ですが

もちろん、オランダには居住者がいて、フィリップスのような著名がグローバル企業が生まれ、古くは1636年にチューリップの先物市場が存在してバブルが発生したような、金融取引の歴史の長い国です。(昔むかし、天王洲図書館分室というコラムを書いたときに使ったネタですが、世界で一番古い先物取引所は1720年の大阪の米の取引のための堂島米会所でした。このオランダのチューリップの先物市場はある意味チューリップマニアの間の相対取引で出来た市場だったそうで、いわば、為替のインターバンク市場のような市場参加者の間のネットワークみたいだったと言えばわかりやすいかもしれませんね。)

ですので、当然証券やファンドに関する法律もしっかり整備されていて、Wet op het financieel toezicht (略してWft) という法律があります。日本語に訳するなら、証券監督法、英語でなら、Dutch Act on financial supervision になります。 ですので、ここを見ればプロ投資家の定義に辿り着けるし、ファンドなどの証券募集のルールの定義も規定されている、という訳です。

オランダのプロ投資家とは

で、法律にある定義を読み解きながらプロ投資家: professional investor とは、を確認しますが、Slideshareなどで何気にきっちり説明しているので、できればそちらと合わせて読んでもらいたいのですが、投資家のグループを大きく分けて

  • ファンド関係
  • 国や中央銀行
  • 金融機関(年金や保険、証券化スキームのビークルやトレーディングハウスを含む)
  • 一定の取引経験や資産のある個人や企業

が挙げられます。

オランダにおける組合の扱いって。。。

そのうち、オランダ籍のファンドに投資するオランダ以外で設立国で設定されたファンドが一番気になる「ファンド関係」のなかで興味深いのが、組合/ partnership が入っていないことです。オランダの現在進行中の税法改正を読んでいるとオランダ籍のパートナーシップというのも存在するのがわかるのですが、Wftにおいてパートナーシップの持分の募集に関する規定等がないことを含めて(ええ、一応一通りWftの目を通してパートナーシップ関連の条文も当たってみたんですよ)、オランダにおいては、ひと昔のルクセンブルクやアイルランドのようにファンドといえば会社型か契約型、という前提がまだ残っているようです。そう考えると、ヨーロッパの投資家がパートナーシップを通じた投資をしたいからロンドンに一番近い非EUのジャージー島やガーンジー島で組成して投資している、と言われれば納得できる背景だともいえます。

と言いつつも、このことに気づいて、それ以上に、これを調べる理由 – 組合型のファンドでオランダ籍のファンドに投資するときの条件がProfessional Investor であること- と照らし合わせた瞬間、思わずWftを WTFと読んでしまった自分がいました。

募集のためのもう一つのプロ定義:Qualified Investor とは

さて、このWftを読み進めてオランダでの公募・私募のパートを読み解くためのキーワードは実はProfessional Investor ではなく、Qualified Investor (QI)という定義です。詳細はSlideshareなどで確認していただくとして、ポイントとしては、オランダ国内の QIと同等の資格を、EU域内で同様に定義されて、これがファンドパスポートなどのインフラになっている、ということです。この辺りがアジア・ファンドパスポートなどとの大きな違いだなぁ、と個人的に感じています。EUのような経済圏を構成するための共通インフラの整備がないところでパスポート制度を作ろうとすると、どうしても証券としてのファンドの登録手続きの類似性でのすり合わせしかできず、複数国間での募集ルールの違いがどうしても大きく残るため現実的な実用という点で、頑張ってやっては見るものの頑張らないと出来ないので実績だけしか残らない、という結果になるのではないかな、と思います。その意味で、UCITSが香港やシンガポールで大きく受け入れられているのは、ブランド力だけの話ではなく、日本の投資信託の輸出というのは難しい話なんだろうなあ、と思うところです。

で、公募と私募の違い

閑話休題。いずれにせよ、オランダで QI-onlyか non-QIに対する100人規制(ここにも100人規制が。日本の第一種の50人、第二種の250人までのいかなる6ヶ月以内における募集上限で事実上投資家数の上限になっていないのと違いますね。)で規制緩和されるのはWftの一部、公募に対する規制や情報開示義務などのみです。

ですので、ある意味私募と公募を大きく分ける条件がこのQI-only / 100人規制である、といえますが、ファンドについては、Wftで集団投資スキームの募集規制が定められていて、これは規制緩和対象になっていません。

集団投資スキームへの規制は私募に対する規制緩和対象外

ということは、公募であっても私募であっても、この集団投資スキームの規制からは逃れることができず、また、ここにUCITSやAIFMの要請がきっちり書かれていますので、もし日本からオランダの投資家に私募とはいえ募集をしようとすると、EU域外 AIFMであることの適用を求められることになります。とはいえ、EU域外のファンドパスポートが使えるのは、ジャージー島、ガーンジー島、米国、そして香港だけ、となっています。どこも案外運用会社のライセンスを取得するのが大変ですね。

この結果、香港のOFCなら香港の現地届出をしているから持ち込めそうですが、日本の投資信託はおろか、最近流行りのシンガポールのVCCもAIFで持ち込めないことになります。

また、前述の通り、組合スキームの募集手続きのないWftですから、ジャージー島籍のセル・カンパニーなら会社型ファンドなのでいけそうですが、リミテッドパートナーシップをオランダに支店を作って募集しようとしても、募集手続きがないから持ち込めない、という解釈ができてしまう、ということになります。ここにも、ストラクチャーやファンド設立国はちゃんと選ばないといけない、という例が出てきたことになりますね。

まとめ

今回はオランダを見ていきましたが、やはりEU域内はUCITSやAIFMDがしっかり根を張っているので、これらに対して正攻法で攻めないと投資家へのアプローチが難しいのがよくわかりました。

他方で、今回オランダを取り上げた本当の理由のように、オランダ籍のファンド、というのもそれなりにあって、間違えて(?)投資するときにはその現地法に基づいた要請にもちゃんと投資家として対応していないとファンド自体が現地の届出周りや税務など、最終的なパフォーマンスに対する影響が出て大変なことになるので気をつけないといけない、ということはぼそっと付け加えます。FoF的な投資家であるのも、きっちりやるには大変なんですよ。特に今流行りのプライベート資産の投資は。。。


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error: Content is protected !! こんな記事、コピペして使うなんて。。。恥ずかしいです