最近、というか、まぁ、自分自身が国内の組合スキームのアドミ業務の紹介とかを取り扱い始めた頃なのでちょうど 2008-9年あたりから、徐々に海外の投資家を呼び込みたい、という国内の組合形式で投資する人たち、要はバイアウトの人たちとかベンチャーキャピタルの人たちとか、のニーズが高まってきて、そのために国内ファンドとケイマンファンドのパラレルスキームの話とか、国内スキームと海外スキームのメリット・デメリットの話とか、色々と比較検討をするなんてことをある意味ずっとやってきたような気がしています。
他方で、その議論の中で、逆になぜ海外の投資家さんが日本のファンドに投資しないの?(そりゃ、日本語読めないし、日本の法律わからないし)とか、海外ファンド経由でもなぜ入らないの?という話がよく出てきます。その大きな原因として常に挙げられる理由が、税金の話、なのですが、これがなかなか上は上から、下は下まで、今時の表現で「もやる」ので打開策がこう出てこない、という状態が続いているなぁ、というのが個人的な印象です。
で、実際に、その税金の件で最近実務的にあれこれやって、ああ、これじゃあ、という実感することがあったので、いつものようにちょっとピッチブック仕立てで作ってみました。とはいえ、この手の話は個別性が高いことを書くと、やれ税理士法が、とか、やれ守秘義務が、という話になるのであまり突っ込んだ話はできないのですが、それでも自分の備忘程度にはなるくらいの情報量にはなっているはず、なのでちょっとご覧ください。
で、これを枕兼前提知識として、もう少し突っ込んだ話はこの本編であるブログの方でだらだらやろうかな、というのが、いつも通りのスタイルですので、もし長い話が気に入らない、耐えられない、つまらない、と言う方、ここらでお引き取りの程を。
まずはとっかかりでも:税金って世界の誰にとっても嫌なもの
さて、海外投資家が日本国内の企業の株式に投資すると、例えば、単純に海外のファンドを通じて日本株式を売買してもキャピタルゲイン税はかかりませんが、国内投資事業有限責任組合を通じていると普通に国内に恒久的施設を持って投資していると看做される結果、一般的には源泉徴収されます。そうしたら、自然と海外のファンドにお金が集まって国内の未上場株式に投資する組合型のファンドにお金が集まらない、ってなるのが世の常です。なぜかって?誰もリターンに比例して、血と汗と涙の不労所得に15.315%も取り上げる税金を喜んで払うスキームにお金を出したくはないものです。それなら仮に出資額の全体の1%であってもそのコストを払うことで出資額より全然大きくなる「であろう」リターンに税金のかからないスキームを通じて投資したい、と考えるものなのです。それが人の常。でも、税金を徴収してやまない各国政府はそうは思わず、税金納めた後のリターンがもっとよければ投資すればいいのになんでなんだろう、と悩んでいるようです(いや、特に徴税部門というところに至っては、普通に投資して税金を納めればいいだけなのに、程度も思わないか)。
他方で、片一方で課税されないのにもう片一方で課税されるなんて不公平だ、と言う意見も当然に出てきます。特に課税したい側からすれば課税する言い訳が出来るわけですからね。でも、だからといって課税してしまえば誰も投資したい、と言う魅力がなくなるので、課税に対する減免措置、と言うのを一定の条件を満たす人にだけは提供する、と言うことで対抗するようになります。その最たるものが二国間の租税条約、と言うものです。
でも、そうなると一定の国の人にとってだけメリットのある話になるので、世界中のリスク資金を日本に!(そうしたら日本の経済と産業の更なる発展が!)と言う理想と期待をする政府(の特に経済産業省あたり)は、より広い形での特例措置を定めるべく徴税部門と調整をつけて(ほら、こっちで税金取らなくても、成長した企業からの税収で賄えるはずだから、的な話をしたのかどうかは分かりませんが、少なくとも、今回の話については経済産業省と国税庁の間での調整がかなり大変だった、と経済産業省の人が2009年の税務改正のセミナーで言ってました)国内への投資資金を誘導する努力をしてくれています。
とは言うものの、海外投資家が日本の企業が大きくなってその結果として株価が上昇して売却するのは仕方ないが、もしその企業に国民の血税を投入して破綻から救済した場合には、その売却益に課税できずに血税を回収できないなんてけしからん!といった国会議員のおかげで導入された通称「Shinsei Tax」は、非居住者投資家に対するそんな(私もいたことのある某新○銀行のように)破綻時に公的資金を投入された企業の株式売却時の源泉徴収課税の仕組みになっておらず、そうでない企業の株式売却時にも適用されることから、海外投資家からすれば「投資しても最終的なリターンが見劣りする」国、と言う見方をされて国ごと敬遠されることとなった、と言われていた時期がありました。
と言うことで、外国組合員に対する課税の特例が導入された、のですが。。。
まぁ、ざっくりいえば、非居住者株式を25%以上持っていると源泉徴収対象になる、と言うルールでしたので、海外投資家が投資するときに、24.9%上限で保有する複数の投資ビークルからの共同保有という形にしておけば売却時に源泉徴収対象外、と言うわかりやすいもののちょっと非効率よね、と言うのが2009年の税制改正までの環境でした。
それが2009年に導入された新しいルールでは海外投資家が組合スキームで入る場合に、その組合員の非居住者性、言い換えれば恒久的施設の有無と執行権限の有無を最初に確認することで純粋な受け身な投資家なのか、自らの判断で投資に来ている立場かを分けることにしました。また、仮にファンドオブファンズの投資先であるバイアウトファンドでの株式売却、となった場合のように、それまでは売却の主体となったバイアウトファンドレベル(第1層)だけだったのが前述のようにその投資家(第2層)だけでなく、その投資家が組合の場合にはその先のレベル(第3層)の投資家の間接保有比率で考えるルックスルーの考えを入れて、特例申請を求めるようになったのです。ただし、金融の世界にいるとこのルックスルーと言う概念は単純に利便をより多くの人に導入する、なんて魔法の杖なんかではなく、単純なルールがただただ複雑怪奇にする混沌のたね、でしかないのです。
第2層:源泉徴収か否か?
さて、普通に投資家の構図を考えるときには資産売却するファンドの直接の投資家が資金の出し手なので、その人たちが組合の共有持分として25%以上保有しているかどうか、だけ考えれば良さそうなものです。しかも、そこならば国内に投資するGPがいるくらいですので、GPが源泉徴収だってし得るわけですしね。と言うことなので、それまでの海外の複数ファンドで24.9%まで保有させて(そのために海外投資家には複数のファンドと出資契約を締結してもらう、と言う面倒をして)もらったのが、海外投資家向けのファンド一つで25%以上持ってもらったとしても、それぞれの投資家が25%未満になっていれば特例申請して源泉徴収を回避できる、と言うファンドを運用する側にとっても、投資する海外投資家にとっても、手間が減るように見えたのです。
日本語で記載して署名した申請用紙の原本を、英文組合契約書の完全翻訳とともに麹町税務署にまで持ち込む、という特例申請という手間さえなければ。最初のexit案件の前に海外から提出に来る、と思うのかしら。。。まぁ、そこは国内のスポンサーが代理でまとめて提出するよね、と思っているでしょうけど。。。
でも、バイアウトならばまだスポンサーは一社でいいのですが、もしベンチャーに複数投資していたら、当然間接的な保有銘柄って重なるものが多いですから頑張って間接保有比率を足し上げてみたら25%を超えていた、なんてケースは当然あり得るものの、そうなると、どのベンチャーキャピタルファンドもそんなことの取りまとめなんてするポジションにいる、なんて思わないから。。。。誰が面倒見る前提なのでしょう。やっぱり自己責任?
第3層:所得税・法人税か否か?
ところで、海外の投資家が日本のバイアウトに狙い撃ちで投資する、とは限らず、投資情報をまとめて管理するゲートキーパーが運営するファンドオブファンズに投資した結果投資していた、ってパターンの方がより可能性の高いシナリオなのですが(とはいえ、海外投資家向け日本のバイアウトファンドのファンドオブファンズってそんなに数があるわけではなく、さらにいえば海外投資家向け日本のベンチャーキャピタルファンドのファンドオブファンズというのが表立って存在していないので、このストーリーがいうほど一般的ではない、というのを知った上で言うのですが)、そうなるとファンドオブファンズレベルである第2層で25%以上保有したとしても、第3層まではルックスルーするので、その投資家レベルでの間接保有比率で見れば、大抵の場合には25%を超えることは余程のことがなければないでしょう。
その場合の特例なのですが、実は源泉徴収の免除ではなく個人なら所得税、法人なら法人所得税に対する特例なのです。実際に源泉徴収に対する特例の条文を何度となく読み直しても、どうやってもファンドオブファンズには使えない、おかしい、と思ったら、別の条文なんです、と教わったので、おかげで申請用紙も別の様式で、確かにこれなら直接保有するファンドの投資家であるファンドオブファンズの情報も書けるので自分が第3層の投資家だということが説明できるので納得であるのですが、当然日本語。
しかも、ファンドオブファンズの投資先のファンドでのexitがこれに該当するって自分から把握できる末端の投資家、いると思います?とすると、25%以上超えて保有していた、と把握しているはずのファンドオブファンズのゲートキーパーが、ということになるでしょうけど、国内の税制に理解をしているならばそもそも25%以上になるアロケーションをするのでしょうか。それとも、紙を出せば許してもらえる、という理解をするのでしょうか。どちらにしても、該当する投資家分の特例申告書を日本語で準備して、そのファンドオブファンズの組合契約書と売却を行なったファンドの組合契約書の日本語訳と合わせて税務署に持ち込みです。もちろん投資家の数だけ、です。
と、簡単に書類を作って持ち込めばいい、って書いているように見えるでしょ。実は。。。
ええ、書類が原本である必要がある、ということは、ここにサインして、っていって素直にサインしてくれればいいのですが、例えばこの一年を思い出すとわかりますが、郵送事情は最悪になっています。例えば、EMSについては、パスポートを持って渡航する際に事前審査であるESTAを行うのと同じように、EMSも手書きのラベルではなくシステムで入力して事前に審査してもらいつつそのアウトプットを郵便局に持ち込むシステムに変わりましたし、さらにいえば北米向けのEMSについてはこれを書いている2021年4月現時点でコロナウィルスの都合で運用中止。なのでFedEXやDHLのような無駄に高いサービスを使うほかないのですが、他の地域にしたって同じように結構今までスケジュールの読める物流が全く読めなくなったのでものがいつ届くのかわからない。
さらに、そもそもの考え方として、届出義務が生じる、ということは届け出なかったり書類の不備があるなどの不測の事態による特例を受けられないリスクが残る上に、というより、これを一番言われることなのですが、書類を出すと自らの存在すら示すことになるので嫌だ、という情報の秘匿性に拘る志向というのは、AML/KYCでだいぶ開示が進められている現時点であっても、必要以上に出したくない、という意味では当然にあるものです。
ということで、スポンサーが全員の特例申告書を個別に作って単純にサインして返送して、と依頼したとしても全部が必ず返ってくるわけではないのです。そうなると、一部を出して一部を出さないと何が起こるのか、というのはどうなるのか、とか、そもそも一部が出すことでやぶ蛇だったのでは?という懸念すら発生することになるのです。
特例がそもそも適用されない組合員
さて、こう書いていると誰でも特例が適用されるように見えるのですが、どんなに頑張って条文を解釈しても特例が適用されない組合員、というのが組合には必ず最低1人は存在します。それは、その投資の判断を行う、業務執行権限を持った組合員、いわゆる無限責任組合員、です。また、受け身な投資家、と思われる有限責任組合員であっても、無限責任組合員の取締役や運用チームのメンバーが有限責任組合員とか(Special Limited Partner という名目で成功報酬を受け取るスキームにしていればそれもその性質によって)も無限責任組合員と同じ扱いとして適用されないそうです。
そうなるとどうなるか?特例が適用されないってことですので、単純にキャピタルゲイン課税の対象ってことです。源泉徴収されて納税するか、所得税/法人所得税の申告・納税を行うか、というところです。
えっと、それって海外投資家が国内所得部分だけ財務諸表を作成しては法人税申告書を作成したり、個人ならば確定申告をするのか?って感じですよね?
しかも、海外投資家さんですので、もし法人ならば外国法人登録をまずせねばなりませんし、その納税義務国と日本との間の租税条約による減免があり得るので、そこを調べて、もし減免できそうならばその減免申告書とそのための納税義務国の納税証明書を取得・提出などの手間も発生します。
税金を払うのとどっちがいい?って話でもあるのですが、もし払うことになったら、納税できる場所、というのが(国内に住んでいる私たちにはあまりに当然なことなのですが)日本国内の銀行か郵便局ですが、海外投資家さんで日本に恒久的施設を持っていない人たちにとってどうやって払うの?というそもそもの疑問と実務的困難が起こることになります。税務署もそこはわかっている、というか逃さない、ということでそういう納税義務の発生した非居住者に対しては「納税代理人」という国内で連絡の取れる人を届け出ることも合わせて求めています。恒久的施設がないのだから、国内にいる誰を納税代理人にするの?という問題、どう解決しますかねぇ。。。まぁ、全部、日本にいるスポンサーが取りまとめる以外ないのでしょうけどね。
そうそう、忘れてましたが
この議論、株式の取引の議論でしか成立しません。また、組合スキームしか機能しません。ま、海外投資家は喜んでunit trustなんて使いませんし、プライベート資産投資なら会社型スキームを日本に使うか、といえばタックスブロッカーとして使うかどうか、ではありますが、使うなら前述の使い古された25%未満への投資のために使うしかないでしょうから効率的か、といえば疑問が残るところです。不動産投資の場合は、租税条約を使う方がより効果的でしょう。
ということでまとめ
多分国税側もわかっている話だと思うのですが、税務の特例を得るためには国内で誰かが税理士の先生と個別案件を検討し、書類作成をし、提出することでこれらの投資家が国内に投資している、という foot printを残していく、ということが必要になるのです。これを、書類を出せば許されるんだったらやれば、というのは実務的負荷は思う以上にある、というのがなかなか理解されないのは、日本語を使わない人たちに日本の税務への理解を求めることの大変さ、というのを肌でわからないから、なのですが、それを言えば誰かにやってもらえるなんて羨ましい人と、やって大変な人とがいる、というのが現実なんですよねー(言いたくはないが、指示する人と指図される人の時給の違いって、想像できますよね)。
日本がそういう国だ、郷においては郷に従え、という言い訳はあるでしょうけど、まぁ、頑張って汗を流せば許してもらえるってことで資金が日本に来るか、というのは正直疑問しかありません。と言っても、仮に資金を自由に流入させたところで、外為法の事前・事後届出があるので実際のところ投資の自由度がこのところ落ちているのも事実。
税金を取るのが悪い、とは(本当はいやなんですけど)言いませんが、失敗する可能性もあるリスクマネーに対して入るのは自由で出口で成功した時だけ場所代を取るってのも、取りやすいからとる、という発想から言えば安直で都合のいい理論に聞こえます。とはいうものの、取れないところからは取れない、のも事実ですからね。海外からリスクを取ってもらえる資金を入れるというのはそんなに簡単ではない、というところで。
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