プロの投資家の定義と、結果的には現地の私募のルールを覗く、と言うのが気付いたらシリーズ化されてしまった感があります。おかげで調べて書けばいい(って、遅筆の私にはそんなに簡単な話ではないのですが。。。)のでネタに困らないものの、何気に法律を読み込む作業になるので、より遅筆に拍車がかかってしまっています。前回の香港から1ヶ月以上で、SlideShareとyoutube にアップ、ですからねぇ。。。まぁ、これには人に言えないいろいろな大人の事情があるのですが。。。
と言うことで、まず、このタイトルでググって来ちゃったけど長い解説のいらない、と言う人のために、手軽に目的の半分以下が果たせるスライドと動画をご紹介します。
と言うことで、ここからまた長くてくどい解説が始まりますが、その予定のため、見ての通りスライドとかでは触り程度、の解説でしょ?(嘘)
まずはご当地プロ投資家の定義でも
シンガポールでのプロ投資家、と言うのは、日本と同じように三つのカテゴリーが規定されています。
- Accredited Investor
- Expert Investor
- Institutional Investor
現地の証券関連法である、Securities and Futures Act (SFA) の定義を見ていくと分かるのですが、日本のような適格機関投資家ならば特定投資家でもある、と言うような内包関係はありません。と言うことは、日本のような有価証券等の販売の際の投資家保護の緩和措置のための発想ではない、と言うことが予想されますね。
しかし、シンガポールと香港は、長きに渡って競合する都市国家のようなところですが、法律の名前の付け方も同じような、でも微妙な違いを出すなんて、という感じです。
Accredited Investor – 富裕層個人などを規定
SFAでも最初に定義されるaccredited investor ですが、定義の通り、資産を200万シンガポールドル(ということは、書いている今日= 2020/May/9 の為替レートが 75.51円なので、ざっくり 1.5億円)持っているか、100万シンガポールドルの金融資産を持っているか(ということは 7500万円)か、年収 30万シンガポールドル (2265万円)稼いでいるか、という個人をまず指します。自分では持っていないし、もらってはいないし、日本での年収の相場で考えるべきかわからないものの、とは言え、日本で 2000万円以上稼いでいるのは、例えば平成30年の納税関係の資料で使える「民間給与実態調査」では対象となる 5026万人の平均給与が441万円のところ2000万円以上の給与所得が29万人(全体のざっくり 0.6%)いる、と思うと、まぁ、いるわな、と思うレベル。
この他、法人なら 1000万シンガポールドル(7.5億)の純資産があること、あとはシンガポール籍のtrust口座の一部、とされていますので、まぁ、案外いそうな気がしてきます。
Expert Investor – ブローカレッジ目的の定義?
続いて定義されるのが expert investor ですが、これはSFAで定義されるCapital Market Product (日本で言えば有価証券)の売買を自己勘定、もしくは代理人として行うことを生業にしている人、と一部のシンガポール籍のtrust口座、ということなので、そういう目的なのかな、ということが想像されます。
Institutional Investor – 名前の通りの機関投資家、以上のビッグネームがゾロゾロと。。。
最後に定義されるのが institutional investor、 日本語に訳すると機関投資家、ですね。これ、法律の中でも(a)から (z)を通り越して (aa) まで項目があるくらい、いろいろな人たちがここに括られていて、スライドの中でもざっくり7グループにまとめてしまいました。多分現地の人たちがこんなふうにまとめることはないような気がしますが、そこは概略の説明だから、ってことで。。。で、ここでも、念の為(文字稼ぎの都合)、定義の順序に従った、7グループを紹介してみます(笑)
Group 1: シンガポール政府筋
ここは定義の最初に出てくるだけあって、大御所です。何せ、シンガポール政府とその法定機関(statutory board)と言った、シンガポールの国、ですね。まぁ、国から投資資金を受けるなんてのは、まず難しいでしょうから当面は忘れてもいいグループですかね。
Group 2: 政府系ファンド関連
定義をざっくり翻訳してざっくりまとめると、「一国の政府が(直接・間接問わず)全体を保有し、その自己資金や外貨準備金を管理し、もしくはそのような資金を管理するファンドからの資金を管理することを主たる業務とする企業体や、そのような目的のファンドに資金管理を任せている(ファンドオブファンズのような)企業体」ということで、SWF(Sovereign Wealth Fund) とか、そこの資金を預かって運用しているところ、的な感じ。まぁ、シンガポールのあそことか、アラブのあそこ、とか思い当たる人なら、多分それ的なやつ。まぁ、頑張ってください(意味不明)
Group 3: 外国筋(シンガポールから見て)
定義の意訳もこんな感じ「シンガポール以外の中央銀行や中央政府、シンガポール国外に設立されたそのような中央政府の政府機関」。ですが、日本なら、国内で直接やる方が早い、のか、海外向けのポケットを敢えてシンガポールでファンド募集の形でやるのか、というと。。。うーむ。別の問題があるような気がするがその時に考えてください(笑)
Group 4: いわゆる超国家的なひとたち
訳した時に、分かるかなぁ、と思ったのですが、例示すると、ああ、と言ってもらえそうなので。。。「多数国参加機関や国際的組織、超国家的組織と言った、下記に例示されるような組織(で、実際にはSFAに規定される): アフリカ開発銀行、アジア開発銀行、IMFなど」。結構、リストには例示されているのですが、Group 3 でも書きましたが、こういう人たちからなぜシンガポールで資金調達を日本人がするのか、そっちを考えるのがなんなんですが。。。まぁ、そういうシチュエーションがあれば是非(笑)
Group 5: 国内外の金融機関系の人たち
ここが実は列挙されているのが長いし、(定義とは言え)他の法律も参照しているので書いていて面倒だったところなのですが、煎じ詰めるとタイトルの通り。ここも文字稼ぎ(とGoogle の index にひっかかりやすくする)目的で翻訳を並べると「シンガポールの法律で定められる銀行、商業銀行、金融会社、保険会社、信託会社、資本市場サービス(要は証券取引)ライセンスを保有する企業、認可/公認取引所、認可/公認手形交換所、国内認可もしくは外国取引情報蓄積機関、預託機関、認可持ち株会社と言った主にシンガポール国内の金融のプレーヤーや、シンガポール以外の、シンガポールのMASが行う金融監督機能がある国における、銀行、金融会社、保険会社、信託などの金融系法制度に基づき事業を行う企業– 要は国内外の金融事業者ですね」。日本もそうなのですが、証券取引所とかも入ってくるんですよね。で、これを見ると、日本の金融機関とか運用会社もシンガポールでは institutional investor 扱いになります。でも、投資家として、ですからね。ここ、テストに出ます。
Group 6: 投資ビークル系
ここ、実はこの訳がいいのか悩むところではあるんです。というのも「シンガポール国内外の年金基金や集団投資スキーム、MASが予め規定する信託勘定」、とすると、集団投資スキームならどこで作られたファンドでも入っちゃうんじゃないかな、と。実際、この元の言葉、Collective Investment Scheme (CIS)ってSFAでは定義があり、また、このあと議論に出てくる私募の時の大前提にあるわけですけど、その際には国内籍のみならず国外籍も同列に取り扱っていますので。。。大丈夫か?でも、これ大丈夫だと、シンガポール籍のFoF からの投資を受けたい、という時に使えることになるので大きいですよ。まじで。
ということで、本気でやる時には現地法の弁護士にご相談を。お安く紹介しますよー(笑)
Group 7: その他、シンガポール金融当局の指定するもの
で、最後がこれ。シンガポール金融当局(Monetary Authority of Singapore: MAS)の予め定める人たち、ということで、現時点の SFA では「Accredited investor や expert investor に対して債券のディーリングを行う事業を行う法人」や、MASが別途定める者として挙げている、「MASに登録するファンド運営業者が行う30人未満の適格投資家向けの資産運用サービス」や「シンガポール籍有限責任組合のうちすべての組合員がinstitutional investor であるもの」、など限定的なものになります。最後のシンガポール籍の有限責任組合スキームって以前からプロモーションが盛んでしたがちょっと使いづらい、ということであまり使われていないんですよねぇ。しかも、そこに全部 institutional investorを並べるって。。。上記の人たちを連れてくるって現地の有力投資ってことで十分ニュースになりそうですよね(笑)
ということで、日本の法律での構成と異なることがざっと見て取れたと思います。で、これを踏まえて、ファンドを募集する時のルールを見ていくことになるのです。
シンガポールのファンド募集の基本
日本の金融商品取引法と異なり、SFAでは 283条から308条までファンドのような集団投資スキームの募集に関するルールを定めています。
これによると、シンガポール国内でファンドを作るには、運用ライセンスを持った運用者等、現地のライセンスを持った関係者で設立して、登録を行うことがまず必須です。シンガポール国外で設立されたファンドの場合には、MASへの届出をしてrecognise される必要がある、とされています。また、これらのファンドが募集を始めるにあたっては、その目論見書をMASに登録する必要があるそうです。(あ、これはざっくりと説明しているだけですからね。もし本気でやるなら現地弁護士の協力を求めてくださいね!)
また、上記のファンドに対する規制等とは別に、募集できる人、としてCapital Market Services のライセンスを持った人など relevant person がファンドの販売、募集を行える、という立て付けになっています(309B条(1)(c))。
あれ、日本のように、ファンド設立したら有価証券届出書とか私募の届出を行って、第一種か第二種の金融商品取引業者さんに売ってもらう、というのと同じですね。というか、それが基本です。ということで、シンガポールでも、現地のライセンスを持った人たちと仲良く仕事をしないといけないし、彼らのお作法にのる必要がある、ということなのです。
でも、投資家を直接知ってるし、届出とか面倒だし、とかいろいろな理由があって除外規定を求める人、いますよね。というか、多分ここを読んでいる日本人の理由ってそこが半分でしょうから。。
ということで、ファンドの除外規定でも
一応、除外規定がいくつかあります。
302A Exemption
多分、誰も積極的に使わないと思う。だって、支払いなく無償でファンド持分を手に入れる場合、ですから。相続とか、そういう理由でしょうね。法律としては大事なルールですが。。。
302 B Exemption
少額募集のルールです。どの12ヶ月の期間をとっても、募集した金額が500万シンガポールドル(ざっくり、3億7500万円)を超えない場合、ですので。。。仲間内でやる時には使えるかもしれませんが、商業的にどうか、という問題があるでしょうね。
302 C Exemption
お待たせしました。きっとみんなが待っているのはこれです。いわゆる私募規定でして、どの12ヶ月の期間をとっても、募集人数が 50名を上回らない、というものです。金額を問わないので、募集に使えそうですよね。しかもよく見ると、投資家の制限が特にない!これだ、探し求めていたものは、と思ったでしょう。実際、ケイマン諸島籍のファンドを作って、シンガポールの投資家に対する募集を意識した目論見書や subscription document などには、この302C Exemption の前提が埋め込まれていることが多いです。
とは言え、当然、除外規定を使うためには色々と条件があります。スライドでは省略したくなるくらい色々ありますが、見たい?
見たい、という答えが来たという前提で続けますが、まぁ、色々あります。条文をそのまま抜き出すならば
(a) | the offers are made to no more than 50 persons within any period of 12 months; |
(b) | none of the offers is accompanied by an advertisement making an offer or calling attention to the offer or intended offer; |
(c) | no selling or promotional expenses are paid or incurred in connection with each offer other than those incurred for administrative or professional services, or by way of commission or fee for services rendered by any of the persons specified in section 302B(1)(d)(i) to (v); and[1/2005] |
(d) | no prospectus in respect of any of the offers has been registered by the Authority or, where a prospectus has been registered —(i)the prospectus has expired pursuant to section 299; or(ii)the person making the offer has before making the offer —(A)informed the Authority by notice in writing of its intent to make the offer in reliance on the exemption under this subsection; and(B)taken reasonable steps to inform in writing the person to whom the offer is made that the offer is made in reliance on the exemption under this subsection. |
(a)は既に書いた通りですが、(b) はいわば、自ら積極的に募集してはいけないし募集に対して注目を向けさせてもいけない、のです。じゃあ、どうやってファンドがあって募集することを知らせるの?という疑問はありますが、まぁ、いわば、これがいわゆるリバース・ソリシテーション、こういう感じのファンド探しているんだけど、と投資家から問われて初めてこんなのがあるんだけど、と説明するケースだけを想定していると解釈できます。
(c)は、販売費用やプロモーション費用を支払っていないこと、ということは、代償を払って誰かに国内で募集行為を行ってはダメ、という意味ですが、後段については、シンガポール国外でその現地のライセンスのある販売会社との販売契約等の締結のうえ費用支払いをしていることは許容する、という意味のようです。例えば、日本とシンガポールと香港とでファンドを売りたい、と思って、日本と香港でそれぞれ現地の販売業者さんを通じてファンドを売って費用を払っている、けどシンガポールでは自分で直接募集行為を行いたい、というのはあり、ということのようです。
(d) については、除外規定を適用させるのだから、除外される、目論見書の登録をしていないこと、が必要になります。もし、お金と手間をかけて登録したけど、もう除外規定の範囲でしか募集しない、と決めた場合には、登録を取り下げて、MASに今後は除外規定で募集すると伝えて、投資家にも、この募集は除外規定でやるからね、と伝えなければいけない、そうです。
まぁ、これだけを見ると、なんとなく頑張れそうですよね。大きく集められるならば。
304条と305条の罠
ですが、法律って複雑に出来ているので、読み手にいろいろなリスクを生み出す場合があるんですよね。例えば、これだけぬか喜びさせていますが、304条以下にこうあるんです(面倒なのでスライドからの引用ね)。
304条
本章にある(第2小章の)ファンドの登録・承認並びに(第3小章の)届出は、 (過去に発行されたかどうかは関係なく) institutional investor に対する集団投資スキームの持分の募集には適用されない。
304条A(1)
302B, 302C, 303(1) 並びに305Bの各条にも関わらず、また本(2)号によるが、304条に基づく除外規定に依拠して募集を行い取得された集団投資スキームの持分が、institutional investor 以外のものに初めて売られたとき、本章にある(第2小章の)ファンドの登録・承認並びに(第3小章の)届出が適用される。
この条項のおかげで、302C exemption で募集しようとしても、institutional investor 以外の投資家に募集したら登録・承認の手続きや目論見書の届出を行う必要がある、という解釈があるのです。しかも、ややこしいことに
305条
(1) 当局による変更等を除き、本章にある(第2小章の)ファンドの登録・承認並びに(第3小章の)届出は、 (本条ではrestricted schemeと呼ぶが)以下の本条第3項を満たす限りrelevant person に対する集団投資スキームの持分の募集には適用されない。
305条第3項
本条(1)項(及び(2)項)の条件とは (a)募集は広告によるものでなく、募集に注目を集めることを行わないこと (b)事務的もしくは(弁護士費用などの)専門的業務への支払い以外の販売費用を払っていないこと、もしくは、302B条(1)(d)(i)から(vi)に掲げる国内の募集業者等へ報酬等を支払っていること (c)(訳注:ここが面倒なのでざっくりと)第3小章にある目論見書の募集がおなわれていないこと (訳注:まぁ、302C Exemption と同じですね)
305条(5)
”relevant person” とは
- Accredited investor
- Accredited investor のみが株主である、投資が目的である会社
- 受益者が accredited investor のみで投資持分を保有することが目的のtrustのtrustee
- 募集を行っている役員かその同等の地位にあるもの(もし募集が会社の場合)、か、その配偶者、親、兄弟、子女
- 募集を行っているもの(自然人の場合)の、配偶者、親、兄弟、子女
305条A(1)
302B, 302C, 303(1) 並びに305Bの各条にも関わらず、また本条第5項によるが、305条に基づく除外規定に依拠して募集を行い取得された集団投資スキームの持分が、以下に掲げるもの以外のものに初めて売られたとき、本章にある(第2小章の)ファンドの登録・承認並びに(第3小章の)届出が適用される。
- Institutional investor
- 305条(5)に規定されるrelevant person
えっと。。。302C Exemption やっても、304 条と305条、どっちかに引っかかるなら、305条がいいんだけど、実際にはどっちに引っかかるの?というのが見えないですよね。
ついでに募集当事者に関する問題も
日本の適格機関投資家等特例業務って、募集行為と運用行為の二つに対する特例行為、でした。しかも自己運用と自己募集に限定されていました。もしこれに上記を照らし合わせると、実は、自己募集に対するexemption の範囲が見えてこないのです。上記の除外は登録・承認と募集にかかる目論見書の登録の議論「だけ」ですので、募集行為を誰が行っていいか、というのが抜け落ちているのです。
その意味で言えばファンド自身による自己募集のできる範囲、というのが明示されていないですよね。これは香港の時と同じく条文で明示するものにたどりついていないので聞いた話ベースになるのですが、自己募集の場合は institutional investor に限定されているようです。おっと、304 Exemption が近いことになりますね。
まとめ
よくオフショアでファンドを作っていると、例えばケイマンの弁護士に日本での募集周りのアドバイスもまとめてお願いできないの?という質問を受けます。国が違うと法律が違う、ので、受けないんですよね。当然です。言い換えると、自分の弁護士資格を受けた国と違う国の法律のことをいうことは可能かもしれませんが、最後の責任は取れない人、と思った方が安全です。
また、経験の多い投資家になるほど、ホームタウンでこうだから、向こうは海外からの人に対してリラックスされてるよ、なんて思いこんでる人が結構多いです。でも、日本の当局が海外の運用者による現地法を援用した違法行為に厳しいのと同じことは自国の投資家を守るそれぞれの国の当局のスタンスとしては当然のことなので、郷に入っては郷に従う、のが基本、と思って、ファンドを作る国と、募集する国ごとに弁護士を雇う(もし10ヵ国で募集するなら10ヵ国の!)ことを、費用対効果で考えることをお勧めします。道先案内人なく旅することはお勧めしません。金融当局という怖ーいラスボスが待ち受けていますから。。。
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