あまり知られていないことなので自分で言わないと知られないことの一つに、自分の経歴、というものがあります(笑)
気づくと偉そうに日本のオルタナ業界のメインストリーム、というニッチな世界でも戦略関係なくあちこちの人たちとお話しさせていただける程度に認知されてしまっていますが、その前に証券化商品に手を染めていた、とか、さらに昔はデリバティブの人だった、とか、履歴書を表立って出さない限りは分からない、くらい昔の話になった、とも言えると、学生の頃に何を学んでいたかなんて想像も出来ないし、当然自分の知人が何学部だったかなんて、ぱっと見で想像なんて出来ませんから、自分が他人様に当てられることなどほぼ不可能、なはずなのです。
で、今の仕事から想像されると、どうしても法学部か経済学部、と思われがち、なのですがまさか理工学部で数学が専攻だった、って思わないですよね。でも、その数学の考え方で、昨年の証券アナリストジャーナルの記事が書けた、と言ったら、みなさん、どう思うでしょうか。
そもそも証券アナリストジャーナルの記事って何?
まず、証券アナリスト、の話から。株とか債券の投資をするときに、その株や債券の評価をするのに、その発行する会社の財務状況とか、売り上げ見込みとか、そういうのを分析して、だいたいこの会社の価値っていくらだから、株の価格がこれくらいかなー、なんて分析をする仕事が、証券アナリストの仕事、とされています。
そうなんです。株式の価格ってのは本来は人の思惑の売り買いで値段が決まるものの、その思惑というのが、いくらが妥当?みたいなことではなく、より理論的な裏付けで決めようとするときに必要となる理論を学んで、実践に導入する、というのがこのお仕事だったりします。
なので、こういうお仕事の人たちは、株が売り買いされているのを見て「EBITDAの x倍で売り買いしているのって妥当だねー」という、株価への直接評価というより別の世界で見ている、のです。
そんな感じで切磋琢磨するのが証券アナリスト協会というところで、その月報というにはかなり重い、論文の数々が掲載されているのが、証券アナリストジャーナル、ですので、証券業や運用業をする人ならば当然持っている証券アナリストの資格、なので、そういう業界の人ならば誰もが読んでいる愛読書、というのがこの証券アナリストジャーナルで、そこに記事が掲載されるなんて、実はすごいこと、らしいのです。
え?らしいって、掲載されたお前がいうか?と言われそうですが、私、アナリスト資格持ってません(笑)
閑話休題。そんな掲載されると栄誉ある証券アナリストジャーナルの2018年10月号でプライベートエクイティ特集、という、通常は上場株のことを扱うところ、未上場株という別世界の資産に関する特集が組まれて、投資の実務などの横で、証券アナリスト資格を持つうちの社長と組んだ最初の仕事として書いた論文を特集の末席を汚すべく、掲載してもらった、のです。
で、その論文というのが、PEファンドの運用成績計測手法についてというぱっと見難解な、実際に論文自体も特集の中でひときわ読みづらい内容だった、という読者の多くの方からのお墨付き。
とりあえず、一年経ったのでこれのセルフカバーじゃないけれどもこれを簡単に説明しようかな、というパワポを作ってみました。
一応、このスライドでは、単純なNAV/u の上昇率というリターンの概念の拡張の先にある IRR をベンチマーク指数との比較に使うとそのベンチマーク指数対比のアルファを出せる、というベンチマーク指数対比のリターンという概念にまで拡張する、というのをIRRを知らない人にも伝えてみようかな、というところに主眼を置いてみた、のですが、この論文にはこのアルファを出す Direct Alpha Method の紹介の他にもう一つ、ハイライトしたかった論点があったのです。それは、プライベート資産におけるベンチマークって概念ってなんなのでしょう。
それもそのはず、プライベート・エクイティ、未上場株、という、上場市場という情報開示の環境の整備された中で取引される上場株と異なり、企業情報は限定的、証券取引も相対がほとんど、という資産への投資評価について、この論文では、上場市場の指標となるベンチマークとどうやって比較するのか、ということを取り扱ったので、単純に考えてみても難しいですよね。ということで、この記事では、その議論 – ベンチマークって何よ – にでもちょっと突っ込んでみようかな、と。
なぜ、未上場株の資産クラスが上場株と比較が難しいか?
比較が難しい理由、は、いくつか挙げるとすれば
- 流動性の違い
- 取引の特殊性の違い
が主だったところと言えます。まぁ、そうですよね。上場市場という、不特定多数が参加する上場市場で売り買いがいつでも(個人的にはそう思ってませんが)出来る – 資産の評価が常に出来て誰もが知り得る -のですが、未上場株式というのは、いつでも誰でもが売り買いできる性質のものではない – ということはその資産の評価価格が二つの意味(取引の低頻度と秘匿性)で誰もが知り得るとは言えない -ので、単純にそういう意味での流動性、という違いがあります。
また、上場株ならば単位株という最小単位での売り買いが可能ですが、未上場株の場合、特にプライベートエクイティファンド、と日本で一般的に呼ばれるバイアウトファンドという会社の支配権を得て会社運営の主導権を握る戦略を念頭に置くならば、会社の発行した株式の50%以上、場合によっては100%の株式の取得、が行われるので、会社本来の価格に対して支配権というプレミアをつけた価格で売買が行われる可能性が高いことから、前述のような証券アナリストが妥当だろうと考える企業価値の理論値に近い株価での取引ではなく、売り手や買い手の思惑や事情がより反映される価格での取引になります。
その意味だと、商業ビルの賃料と管理手数料、そして将来の分配金予想といったキャッシュフローの将来へのプロジェクションを元に算出される DCF 方式での資産価値の積み上げで取引しやすいJ-REIT (まぁ、これも乱暴な言い方ですが)と、値段がよくわからなくとも、隣の土地は売値の倍で買え、的名言の多い、不動産の個別売買との違い、と言えばわかりやすいかもしれません。
でも、この例えであっても、不動産価格には標準地や基準地といったランドマークとなる土地の価格を国や都道府県などが公示し、また税務署などによる路線価とか国土交通省による公示価格とか、それぞれの不動産が参照できる価格のベンチマークのようなものが存在して、これらを使ってそれぞれの土地の価格を演繹することも可能なわけですが、それを未上場株式の価格に当てはめるならば、何があるのか、というのがこの問いでもあるのです。
実際、原価主義/ 減損主義と言われる日本ですら、相続税の計算における未上場企業株の評価方法というのは決まっている – というか、一定のルールを定めないと相続税を課税できない – ので、時価評価のような価格の上方修正に対するリスクを取れないコンサバティブな民族性であっても(税務上とはい必要に基づいて)そういうルールを決めている訳です。まぁ、そこには実際の取引 – というかその会社の将来性等に対する思惑 – に裏付けされた評価額との乖離は当然にあって、それを使った相続の手法なんてのも考える人たちは昔からあとをたたない訳ですが。。。
あれ?プライベート・エクイティのベンチマークとかETFとかなかったっけ?
ところで、プライベート・エクイティのベンチマークっていくつかの作り方で作られて世の中に知られています。例の記事の中で取り上げて、まぁ、どうよ、と思ったのが、米国企業で、一度 go-to-private したあと再上場した株式の集まり、というのが一つあるのですが、これは上場している間は上場市場での評価額と言われれば、まぁ、そうねー、と思うものの、非上場化されている間については上場取りやめ時の最後の評価額から再上場した時の評価額をスプライト曲線(グラフの3点を通る曲線)を使って評価したり、上場取りやめ直後についてはその直近の価格推移傾向をそのまま使う、と言った具合に非上場期間の企業評価額に実勢が反映されず、かつ、再上場を果たすと、前述のスプライト曲線で過去の非上場期間の資産価値を再評価し直して、過去の指数すら修正し直す、という代物なので、なかなか使いづらいものなのです。
また、記事の中で取り上げたもう一つは、上場プライベートエクイティ会社、日本だと JAFCOさんあたり、をかき集めたもの、があるのですが、かき集めた企業価値はプライベートエクイティ市場の世界全体の 0.5%程度しかない、とかかき集めるために上場インフラファンドとか、 BDCのようなものも入ってくるし、そもそも上場プライベートエクイティ会社の時価総額って彼らが運用しているファンドの時価総額そのものでもないので、これがプライベートエクイティの世界の市場を反映したもの、というにはどうなの?という疑問があるのです。
で、その意味ではプライベートエクイティファンドの直近のNAV情報などをかき集めて足し上げれば出来る、というところで、そういうデータベース、Preqin あたりが実は作れるし、実際作っているのですが、Preqin のデータベースユーザーにしか開示していないし、このようなデータベースに情報を載せないファンドの情報が取れない、という両面での情報の公表性に欠ける、という問題がどうしてもここにはついて回ります。まぁ、ヘッジファンドの指数だって、investable ということで今からでも入れるファンドを集めた指数もありましたが。。。
この辺りは、実際にJVCA あたりだと、会員のファンドの情報開示をしてもらって指数の構築を頑張っている、というのは聞こえています。が、会社ごとの評価方法の違いとか、そもそも出したいか、というところでなかなか前途多難、のようです。
ということで、なかなか母集合の小さい世界だと難しい話ではあるのですが、と言いつつも、資産クラスとしてのプライベートエクイティ指数ができても投資可能かというとなかなか出来ないのはクローズファンドの商品性の話でもあるので指数は他の資産クラスとの比較ツールに止まる可能性も高いのも事実です。
まとめ
まとまったのかな、と思いつつも、あの記事のおかげで市場に再認知してもらえたのは感謝ではあります。と言ってあれからもう一年経ちました。これを使って何かを成し得たのでしょうか、自分。。。
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