つい先週にとあるヘッジファンドの日本国内向け私募フィーダーファンドを設定して国内のとある適格機関投資家様に投資していただいたのですが、ヘッジファンド単体への投資となるフィーダーを一つ、とはいえ、実際に7週間で仕上がりました。これを早いと思うか、遅いと思うか、これでその人の最近のファンド設定への時間軸の感覚が見えてきます。ぶっちゃけいえば、アンブレラ・トラストを一から立ち上げるという意味での新規設定でこれは異様な早さ、の扱いになりつつあります。確かにその昔2週間で立ち上げたこともあるのですが、今は昔。世の中の環境の変化でこれくらいは、というレベル感が変わりつつあるのが現実です。
あ、サブファンドを作る場合はまた別の議論があるのですがここでは本当に一から、ということに限定するものの、今回は、その辺りを踏まえた、最短レベルでの立ち上げについてちょっと振り返りつつ、実はファンドを立ち上げるのってこんなに大変!というのを少しでも実感していただければ、というのが、目標とします。
まず、ファンドを立ち上げるって何をするの?
そもそも、ファンドを立ち上げるって、どういうことを意味するのでしょうか。簡単にまとめると次の通りでしょう。
- 投資対象と投資戦略を決める
- 上記を実行するためのストラクチャーとその設立地を決める
- ストラクチャーに求められるサービスを提供するサービスプロバイダーを選定する
- ストラクチャーに基づくビークルの設立や募集のための目論見書、そしてこのビークルとサービスプロバイダーとの間のサービス提供に関する契約を作る
- 設立されたビークルの設立地における登記や関係当局への届け出を行う
- 必要に応じて、ファンドを募集・販売する国における、販売・募集のための事前届け出を行う
で、やっと募集「は」始められるのです。
で、実際、何するの?
ちなみに、上記のそれぞれについて、今回私がどうしたか、というと
- とあるヘッジファンドのフィーダーですので、そのヘッジファンドを投資対象として、ファンドの資産のほとんどを投資して持ち続ける、という戦略になります。
- 将来のシリーズ化を念頭に置いて、ケイマン諸島籍のアンブレラ・トラストにぶら下がるシリーズ・トラストにクラス構造を入れてみました。
- ユニット・トラストのストラクチャーですので、ケイマン諸島の金融当局に届け出ているトラスティ・プロバイダーで過去に付き合いのあるところをトラスティに、ユニット・トラストのガバナンスと管理監督を考えた場合と将来の公募ファンドの設立も視野に入れることで、信託宣言型ではなく信託契約型を採用するため、管理会社の機能を提供する会社を1社、ケイマン諸島で設立して今回の管理会社とし、アドミニストレーターとカストディとしては以前から付き合いのある、ファンド・オブ・ヘッジファンドのアドミとしてはアジア随一のクオリティを誇る銀行系アドミ会社にそれぞれをお願いすることにしました。なお、このファンドの日本国内での販売のために金融商品取引業者の届け出をしているとある会社さんに販売会社として動いてもらうことにもなっています。
- アンブレラ・トラストの設立のために基本信託約款を、今回の戦略のためのシリーズ・トラストを設定するために補遺信託約款をそれぞれトラスティと管理会社の間で締結し、また、シリーズ・トラストと管理会社、そしてアドミ会社との間でファンドの純資産額の算出などの事務管理代行業務に関するアドミ契約を、またトラスティとカストディとの間で資産保全のためのカストディ契約をそれぞれ締結します。合わせて、管理会社と販売会社さんとの間でユニットの募集・販売に関する取り決めを定める販売契約も締結します。ということは、これらの契約書がそれぞれ必要になります。
- 今回、ケイマン諸島でのユニット・トラストの設立ですので、トラストとしての登記が必要になるとともに、ケイマン諸島金融当局(CIMA)にMutual Funds Law Article 4(3) regulated mutual fund としての届け出を行います。
- 今回は国内の適格機関投資家への募集・販売のみ、ですので当初募集開始前までに外国投資信託に関する届出書を提出します。
でも、これで本当に終わり?しかも、7週間って余裕じゃないの?
いい勘してますね。ファンドのセットアップ = 目論見書を作る、ではないんですよね。ファンドが実際に動き出したら必要になるものも予め準備する必要があるのも、文字どおりセットアップ、です。それは何か、といえばファンドの名義の銀行口座や証券口座を開けること、です。
なんだ、口座開設?余裕じゃん。なんのためにカストディ契約結んでるの?
普通はそう思いますよね。契約を結べば自動的に開けて当然。
そんなのは残念ながら、このテロリストから広域ほにゃらら組織、果ては某国の政府高官関係者 (PEPs – Politically Exposed Persons、という言葉があって口座開設の時には注意するように、と海外ではお達しがでるくらいですからね、マジで)まで、ヤバめのお金の移動を制限しようという世界的な動きがあり、また、FATCA でアメリカのためになんで日本で(ブツブツ)なんて言っていたのは今は昔、FATCA も US- と UK- とが出来、さらにFATCA をその他の多国間への拡張の柱になるの CRS まで、自国の富裕層のお金を国外に逃がさない網をあちこちの国が張り始めた結果、銀行口座を開設するために、自分が誰であることを証明し、もしその「自分」が会社やファンドの場合、設立に関わる関係者が一体誰であるのか(少なくともちゃんと名の通った人なのか、それとも黒い影がちらつくのか)を確認する義務を金融機関は負うことになってしまっているのです。
そのため、口座開設のプロセスとして、そのような資料の提出があってから5週間かかる、というのは、ファンドアドミが銀行口座や証券口座をファンドのために開設するシンガポールやダブリン、ルクセンブルクなどでは普通なことになってしまっているのです。確かに、今思えば2015年の12月に CRS の記事を書いた時にこのことは容易に想像できていたわけですし、実際、その覚悟は始める前にはありました。
もちろん、その提出しなければいけない書類の一つに、ユニットトラストや会社型ファンドならば設立した国での登記証明書が入ってきますが、ユニットトラストの場合、信託約款の署名ののち登記に持ち込むのが通常ですし、他の目論見書との平仄を合わせて作る都合もあるので、その署名を行うのも募集を開始する数日前に他の契約書とまとめて、というのがよくある流れ、でした。しかし、もしそれをやれば、目論見書はできたものの口座が向こう5週間以内は開設できていないので、当初募集期間を始めたとしてもまだ口座が開設されていないので買付申込書に送金先口座を明示することが出来ず、そこで目論見書を交付しても投資家も送金先が明示されないので、申し込んでも入金できず買付不成立、ということになりかねないのです。
と言って、口座が開く5週間を何もせずに待つのか、というと、それも困ったちゃんですが、その時点では他には何も出来ない状態になっていますので待つしかないのです。
ということは、すべてのドキュメンテーションを2週間で終わらせて5週間ぼーっとしてたのか?
いえいえ、無理です。通常、目論見書でもその他の契約書でも、最低4回から5回の加筆修正が必要で、その間には法的/ビジネス的背景を持った交渉が発生します。一回のドラフトの作成・レビュー・修正には最初の二回くらいは一回転で2週間、それから徐々にレビューと修正箇所が減ることで契約書のターンアラウンドの時間が縮まるものの平均1週間と見積もっても、だいたい6週間はかかるとみてよいでしょう。
さて、どうやったのでしょう。
企業秘密です。
というと怒られそうですので種を明かすと、実は契約書類の骨組みとなる信託約款だけ最初の2週間で署名して登記、そこからカストディの審査に入ったのです。
というのも、信託約款で定めるべきことは本当に基本的なこと(ファンド営業日や取引日、ファンドの基本通貨など)だけで、実際の運用等については目論見書に記載することから、ファンドの基本構造だけ先にしっかり固めて信託約款だけ先にすすめることが可能なのです。とはいえ、この基本構造をしっかり固められるか、というと常にできる話ばかりではないのも現実なのですが。。。
しかし、こんなやり方は実際はちょっと乱暴なんですけどねぇ。契約書面の承認を各関係者が二回行わなければならないので手間も増えます(手間は増えてもセットアップってあまり評価されないんですよねぇ。。。やれたかどうか、でしか判断ができないので。。。)し、いくら前倒しにしたところで、5週間で確実に口座が開く確証はないのも事実。さらに言えば、今回はヘッジファンドのフィーダーなので単純でしたが、本気で証券取引をする普通のファンドの場合、証券執行する証券会社に取引口座を開く、とか、発生しますのでさらに複雑にまた時間も読めなくなるので、そろそろファンドの設定を◯週間でやることを投資条件にするのは勘弁してほしいな、とは思うんですよねぇ。予算の都合とかはわかるのですが。。。
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